総括
今回の調査を通じて布土地区の住民の中に新しいネットワークが形成され、活動の幅がさらに広がっていく過程を見てきた。その結果として、目的として掲げた「地元の人々が地元を見直すきっかけを作り、さらに他地域へと活動を波及させる効果」もすでに現れ始め、美浜町の他地区からの参加者がぜひ自分の地区でも同様な活動を試みたいとの発言が見られたのは本活動の大きな成果の一つであった。
地元を知れば知るほど、ますます好きになっていくというのが世代を問わず見られた傾向である。「地元の人が地元を調べることによって、単なる調査報告ではなく、布土の素晴らしさを再確認し、他の人にも伝えていきたい」、「この地に生まれてよかったと思えることが活動の目的」など、地元の方の様々な発言があったのはそれをよく表している。今回の事例のように、「地元学」を通じて「地元をよく知る」ことはどのような環境保全型里地づくり活動においても重要なキーワードといえよう。
「あるもの探し」「水のゆくえ」調査などで発見した事項はかなりの量にのばったが、まだ地元を網羅するまでに至っていないのが現状である。今後の活動を通じて順次追加し、季節に応じて、場所によって得られた情報に厚みを加えていく作業も継続していく必要がある。さらに、データシートにまとめられた情報をコンピューター情報としてインプットも検討課題の一つとするならば、将来的に検索や情報の再配布が非常に容易となり教育的効果も高まるものと予想される。
また、平成11年1月現在、美浜町としてのホームページは開設されていないが、上記のようにデー夕を整理しておくと、インターネットを通じた情報発信も可能となり、環境保全型里地づくりの事例として多くの地域が参考にすることができることになるだろう。
「子どもたちが山に入らなくなった」「せっかく美浜町にはこんなにいいところがあるのだから、もっと自然の中で伸び伸びと育ってほしい」…のように「里地(自然)」と「子ども」に関する発言が各所で見受けられたが、これは美浜でも子どもが里山などで遊ばなくなっていることが顕著であることを暗示しているものである。
これは、一概に子どもだけの問題ではなく、親たる大人たちが「危険である」とレッテルをはってしまったために近づけなくなったフィールドも少なからずあることの裏返しであろう。今後は、教育問題も含めて子どもの持つ感性を大切にしながら、自然の中で安心して遊べる雰囲気をつくることも、美浜町における環境保全型里地づくり活動の一環として必要な視点である。
最後に、本調査を通じて気づいたことであるが、布土地区の住民の活動に対して町役場の方々がうまく活動をサポートしていたのがとても印象深かったことである。すなわち、住民主体の活動に対して黒子役的な存在として機能していたのがうまく活動が進んだ秘訣なのかもしれない。併せて、地元に住んでいるキーマンを見つけ、協力体制を持ちながら活動を進めることが、里地づくり活動に必要不可欠であることを改めて認識した次第である。