参考資料
船舶と法規
船舶は、それ自体が高価な財産であるばかりでなく、多数の人命と多量の貨物を搭載して長期間にわたり大洋を航海するものであることから、船体構造を始めとして機関や種々の
艤装品にいたるまで高度の安全性が要求されており、その安全性を満足することが確認されて初めて航行することができる。
船舶の安全性に関する要求事項の明文化は、歴史的には、1760年に英国でロイド船級協会が発足して規則を設けたことに始まる。その後、国際貿易が活発化するに伴い、各国において規則が整備されたが、タイタニック号の海難を契機として国際条約の締結により要求事項が統一され現在にいたっている。条約加盟各国では、国際条約として定められた要求事項を自国規則として取り入れ、船舶の安全性を確認しているが、我が国においては、船舶安全法がこれに当たる。
主要海運造船国には、船級協会と称される法人組織が存在し、保険業務が適切に行われることを支えるために、船舶の船体構造、機関等についてその技術基準を定め、船舶が技術基準に適合することを確認することで船級資格を付与している。各国では、国際条約に定める船舶の安全性を確認するために国が行う権限の一部を船級協会に委任し、船級協会に船舶の安全性を確認させている場合が多い。我が国では、不特定多数の旅客を搭載することから海難が発生した場合に社会的に大きな影響を与えることとなる旅客船を除き、財団法人日本海事協会の船級資格を有する船舶については、国が行う検査に合格したものとみなす制度を採用している。
また、我が国では、船舶の安全性を確認するために行う検査制度の一環として、受検者の利便を図るため様々な合理化を備えている。その一つである認定事業場制度は、艤装品等の製造、改造修理又は整備を行う事業場において自主権検査制度が確立され適切に工事が行われることを確認できることが国により認められた場合に国の検査が省略されるものである。
一方、形式承認制度は、艤装品等のプロトタイプ品につき安全性を詳細に確認し、量産品についてはプロトタイプ品との同一性を簡易に確認するのみで国の検査が省略されたものである。形式承認を取得し、かつ、事業場が認定を受けた場合には、量産品に対し行われる簡易な確認を省略されることとなっている。
以上のように、船舶の安全性を確認するために行う国の検査は、その必然性は揺るぎないものであるが、新技術の進展、また、時代の趨勢も見極めながら検査の合理化制度を随時見直し発展させることが肝要となっている。