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第9章 人工衛星と通信・測位の基礎

 

9・1 人工衛星と通信・測位

1957年10月に旧ソ連が最初の人工衛星スプートニック1号を打上げてから30数年が経過したが、その間の宇宙開発は人類を月に送るなと目覚ましいものがある。その半面、宇宙技術は、我々の身近かなものとなっている。1963年のリレー1号衛星による最初の日米間のTV中継は、ケネディ大統領の暗殺の速報というショッキングな事件で開始されたが、今日では湾岸戦争やオリンピックの例でも分かるように、世界の出来事が同時進行で茶の間の中には入り込んでいる。海外旅行をすれば、世界の大半のところではホテルの自室からダイアル直通で自宅に電話がかけられるし、気象衛星からの雲の写真は、TVの天気予報に欠くことのできないものとなっている。最近の技術では、ポケットにも入る衛星航法装置ができ、これをもっておれば、ハイキングや登山で道に迷うこともなくなりそうである。

船舶の運航あるいは遭難時にも、これらの宇宙技術が数多く使用されるようになってきている。アメリカのマリサットシステム、それを継承した国際システムであるイマルサットの海事衛星通信設備は、1977年ごろから極地方を除く世界の全海域で、陸上と同じような明瞭な電話、ファクシミリ、データ通信などが可能となっている。また、NNSS、GPSなどの衛星航法システムは、 全世界の海域の船舶の位置の決定にはデッカ、ロラン、オメガなどの地上系の電波航法システムよりも優れた性能を発揮している。GPSではアメリカ国防省の安全保障上の理由による故意の精度の劣化をうけた場合においても、全世界的に100m以下の精度での位置の決定が可能であり、特に高精度を要する海域では、ディファレンシャルモードで使用すれば10m以下での測位も可能である。さらに、海洋調査船や測量船などでの特殊な用法ではセンチメートルオーダでの位置の決定法も研究されている。気象衛星、海洋観測衛星などのシステムの船舶、漁船への応用も数多く試みられている。

船舶の遭難・安全への宇宙技術の利用は、「全世界的な海上遭難安全システム」、いわゆる、GMDSSの一つの特長である。インマルサット海事通信システムのうち、特に、無指向性空中線の使用ができ、印刷電信システムのみのインマルサットC、そのインマルサットCとその装置の兼用もでき、遭難安全情報の放送の自動受信のできる高機能グループ呼出しと衛星利用の非常用位置指示無線標識装置(EPIRB)がある。このEPIRBにはインマルサット衛星利用のもののほか、コスパス・サーサットの衛星利用のものがある。これらの海事衛星通信及び遭難・安全システムの理解を助けるために、人工衛星の基礎的事項をまず解説する。

 

 

 

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