4・4 円偏波空中線
一般にレーダーは雨や雪の反射によって妨害を受けるが、円偏波空中線はその反射妨害を受けないで使用できる空中線である。このため、特にレーダーが必要な降雨時での利用度を一段と向上させることができる。
4・4・1 円偏波
普通の航海用レーダーで使用されている電波は主に水平偏波で、電波が水平方向に振動しながら進行する電磁波である。これに対して円偏波は、一波長の間に電界が右回りに360度旋回しながら進行する電磁波である。
円偏波を作るには、空中線内の水平偏波の通路に、その電界と45度の傾斜をもったサーキュライザと呼ばれる特殊構造の金属の格子を置く。いま、水平偏波を放射するスロット導波管方式の放射面の前にサーキュライザを置くと、電波は円偏波に変換されて放射され、空中を旋回しながら進んで行く。
4・4・2 円偏波の効果
普通の水平偏波を用いた航海用のレーダーを降雨地域で使用すると、画面には雨粒からの反射が雲状に相当強く現れる。雨雪反射妨害除去回路(FTC回路)を用いて反射エコーを微分してやると雨滴からの反射エコーはかなり減衰し、船やブイなどの前縁からの反射エコーは余り減衰しないので識別しやすくなる。しかし、強い雨のときには、雨滴からの反射エコーも船やブイなどと同等以上に強くなって、FTC回路を用いても、全く識別が困難となることがある。
雨滴は球形なので、電波はその表面でそのまま反射されて進んで行くが、円偏波が雨滴で反射されると旋回方向の異なった円偏波となって帰ってくる。これが再びサーキュライザを通ると、往行とは90度異なった方向の垂直偏波に変換されてしまうが、この偏波は、水平偏波用の導波管内を通過しにくい方向の偏波であるため、スコープ上には雨滴の反射が現れないことになる。
一般の目標は複雑な形と材質とを持っているので、反射するとだ円偏波となって帰ってくる。これはサーキュライザを通過しても往行と同じ方向の直波成分を相当量含んでいるので、反射エコーは水平偏波を使用したときより若干低下するが、なお相当の強度で受信することができる。特に鉄船では、ほとんど減衰することなく受信できる。
4・4・3 円偏波空中線の使用上の注意
Xバンドのレーダーでは、円偏波の空中線を持っていても、必ず水平偏波を放射できるということが法律で定められている。実際の運用上でも、円偏波と水平偏波を状況によって使い分けることが必要である。