しかし、船体の一部の面がレーダーに正対したときには異常に大きなレーダー断面積となることもあるので、このような複雑な物体は、その反射方向によってレーダー断面積が指向特性を持っている。これに対し、木造船のように電波エネルギーの一部しか反射をしない物体は、その反射波の比率に応じてレーダー断面積が小さくなる。
レーダー断面積をより厳密に定義をすると次のようになる。
『レーダー断面積(Radar Cross Section)とは、ある特定の方向から散乱物体に入射する平面波の単位面積当たりの電力に対する、その特定の方向に散乱する単位立体角当たりの電力の比の4π倍である。更に正確にいうと、散乱物体から散乱電力を測定する点までの距離が無限大に近いときの、その比についてのみこの定義が適用される』(米国電気電子学会IEEE)
この定義を数式で表すと、レーダー断面積σは、その物標(散乱物体)に入力するレーダー電波の電力密度をSo〔W/m2―単位面積当たりの電力〕、反射する電力をSr〔w〕とすると、
σ=4π(Sr/So) (9・22)
ということで、W/(W/m2)であるからm2の次元、つまり面積という次元を持つ。いま、レーダーと物標との間の距離R(m)、物標のところの電界強度をEi 、レーダーの方向に向けて反射する電界強度をErとすると、電力比は電界強度比の自乗であるから σ=4πR2(Er/Ei)2となり、この式は上の定義によりR→∞のときにのみ成立し
となる。なお、IMOなどでは、このレーダー断面積の代わりにエコー面積(echoing area) という用語を使っているが、その定義は全く同じである。
ここで、いくつかの理想的な形の物体のレーダー断面積の例示をする。なお、各物体の材料はすべて完全導体であると仮定をする。