5・3・2 周波数変調(FM:Frequency Modulation)
(1)周波数変調の原理
周波数変調は信号波に従って搬送波の周波数を変化させる変調方式であり、比較的広い周波数帯が必要で回路構成も振幅変調に比べ複雑であるが、雑音の影響を受けにくく品質の良い通信が可能という特長を持つ。いま搬送波をv=Vsinωt、信号波をvp=VPcosΩtとすると変調波の周波数はω+γVPcosΩtとなる。ここにγは比例定数である。したがって周波数変調波は
となり変調波形は図5・20(d)のようになる。ただしJk(X)はベッセル関数を表し、また△ω=γVp,m=△ω/Ωで△ωを最大角周波数偏移、mを周波数変調度と呼ぶ。周波数スペクトルの例として図5・34に1kHz及び2kHzの正弦波を最大周波数偏移△f=△ω/2π=4kHzで周波数変調した場合のものを示す。式(5・21)から分かるように周波数変調波は原理的に零から無限大にわたる周波数成分を含みこのままでは一つの伝送路で一回の通信しか行えないことになる。しかし実際の周波数変調波のスペクトルは搬送波周波数から十分離れると非常に小さくなるので通信にはすべての周波数成分を用い上は差し支えない。船舶用150MHzVHF無線電話装置においては最大変調周波数は3kHz、最大周波数偏移は5kHzで占有帯域幅は、16kHzとされている。
周波数変復調で信号波が“1"あるいは“0"のディジタル量の場合はFSK(Frequency Shift Keying)と云われている。FSKでは“1"と“0"はそれぞれ周波数をf1,f2の2種類の正弦波で表す。例えば信号が図5・35(a)のとき、変調波(b)のようになる。この場合も変調波の周波数スペクトルは(原理的に)非常に広帯域となるが、受信側ディジタル符号を再現するためにはそれほど広い帯域の変調波は必要ない。