ただし主たる滞納理由は「保険料が高く経済的に払うのが困難である」にある(回答の半数強。96年調査)。この点を軽視すべきでない。生活保護をうける高齢者数は将来100万人近くになるおそれがある。
「国民皆年金」という年金ロマンは年金行政担当者の悲願であった。ただし、これまでのところ、その悲願は日本では一瞬たりとも実現したことがない。むしろ現実は、その悲願をさらに遠いものにしつつある。
年老いてから生活保護を頼りにする人が多数に及ぶ。これが「皆年金」の空洞化によってもたらされる一つの帰結である。もう一つ、(年金不信による政府への信頼感低下が「皆年金」空洞化の一因となっていると同時に)空洞化の進行が年金不信とりわけ若者の年金不信をさらに強めてしまう。非サラリーマンは公的年金の保険料を払いたくないと思えばペナルティーなしにその支払いを拒否することができる。サラリーマンは自動天引制度の故に支払い拒否ができない。同じ国の制度でありながら、このような取扱いは不公平ではないかという疑念が若いサラリーマンの脳裏につきまとって離れない。
日本の政府関係者はこの点を熟知しており、未加入者の解消促進に涙ぐましいまでの努力を試み、滞納保険料の納付督励を懸命になってつづけてきた。仮に、そのような努力や督励が全くされなかったとしたら国民年金の適用状況は今日、もっと惨めなものになっていたに違いない。
今もなお、そのような努力や督励が続けられている。20歳到達者の加入徹底、国民健康保険との連携(届出書・窓口の一体化)、口座振替による自動納付促進、一括前払いの奨励(年利5.5%の割引)、電話催告・戸別訪間の実施、選任徴収員・未納保険料整理月間の設置、事務担当者等への研修実施、各種広報の実施等々。このような対策は国民年金の未加入者・滞納者が集中している都市部で重点的に実施されている。
未加入者・滞納者の解消策として新たに検討されているものもいくつかある。その1つは国民健康保険料(税)との一体徴収である。国民年金未加入者のほぼ7割が国民健康保険に加入しており、年金保険料滞納者のうち6割強が国民健康保険料を納付しているからに他ならない。都道府県民税と市区町村民税は現に一体徴収されており、国民年金保険料と国民健康保険料(税)の一体徴収が実現するか否かは政治家のトップ判断にかかっている。
もう一つ、現行の国民年金制度では保険料を全額納付して満額の年金に結びつけるか、それとも納付免除となり3分の1の年金を受給するか、の二つしか選択肢がない。国民健康保険料には保険料の軽減(2〜7割軽減)制度がある。それにならって田民年金にも保険料の軽減制度を導入したらどうかという提案もある。保険主義を厳格につらぬくかぎり軽減保険料を納付した人の年金額は満額年金よりも低くなる。低額年金は「皆年金」の思想(年をとったら生活保護に頼らず、年金で最低生活費を賄う)とは必ずしも合致しないものの、現状を放置するよりはましだと考えられるからである。