とである。そうした市町村の努力の結果、それまで社会的入院をしていて平均入院日数を延ばす要因になっていた高齢者が、より早く退院できるようになったのである。それがいかにして達成されてきたのかを、この論文で解明してみたい。
1.3 デンマークの医療制度に見る公的制度の特質
医療問題に触れたので、ここでデンマークの医療制度の特質を記しておく。この論文の課題であるデンマークの高齢者福祉制度を理解するうえで役に立つからである。日本を含め多くのOECD諸国では見られない特質がある。
デンマークの医療制度は、財政的には全て県民税でまかなわれている。給与所得者の場合は、給与からの源泉徴収である。病院医療は近世以来、租税により公的に運営されきている。ということは、運営費は出来高払いではなく予算方式で行われいることになる。近年民間の病院もできたが、その幾つかは財政難で閉鎖され、残っている民間病院のベッド数は病院全体の1%以下に過ぎない。従って、デンマークの病院は公的サービスということができる。
デンマークの病院には一般外来はない。これも多くの国と違うことで、外来はかかりつけ医師である家庭医の紹介による検査か、退院後の継続診察だけである。こうした外来は予約制だから、殆ど待ち時間がない。また上記したように、病院では一切無料である。初診料や差額ベッド料などの一部負担のようなものも一切ない。県税で前払いしているという考えで、必要な人が、必要なときに、必要な医療処置を受けることに対する国民的合意によってこうした制度は作られた。
家庭医は自由業で、提供する医療サービスとそれに対する支払いに関しては、日本の保険医制度のように医師会と、支払い者側である県連盟との団体交渉でを決められる。しかし、多くの点で日本とは非常に異なっている。1973年まで、家庭医制度は国会補助がある疾病金庫による保険制度で運営されていた。当時も利用者には無料であったが、1973年に民間の疾病金庫から県の医療保険部に業務が移った。また財源もそれまでの保険料は廃止され県民税となった。税法式になっても利用は無料である。
この伝統は、既に19世紀後半から患者と医師との間にお金を介在させないことで、国民の医師に対する信頼関係を築く目的でずっと維持されてきている。患者が医師へ直接診察料を支払うことは、時に不当に高い値段だと感じさせたり、医師が過剰医療をしているのではないかという疑惑を抱かせることになるだろう。それは患者と医師の信頼関係を揺るがせることになる。お金の介在がないことによって、患者は医師が医学的に必要な医療を提供しているだろうとの安心感を得ることができるし、医師も変に疑われる理由がないから医学的な判断だけで仕事ができるというメリットがある。初