私の失敗談
海上安全指導員海洋会・ボランティアクラブ所属 安部裕夫
平成元年初秋、三浦半島、相模湾ヘプレジャーモ一夕ーボート、5馬力の船外機付で釣りに出かけ、思わぬ大漁で意気揚々と帰投中、突然、ガックンとエンジンが止った。見ると不覚にも刺し網に引っかかり、船体の後部が少し引き込まれて、スクリューが網に掛っていた。夕方で陽は正に西に傾き、運悪く風も南に変わり始めていた。何とか網を外さねばと、ボートフックで網を解こうとしても、ビクともしない。メーンロープを切る以外に処置なしと判断して、小型ナイフで切り始めたが、ロープは意外に堅く、やっとの思いで切断し、網の纏れを取りさばくには可成りの時間がかかった。家内は、陸岸で私の帰りが遅いと待ちあぐんでいた。漁師らしい人が様子を見ていたので、漁師の家にお詫びに行くことにした。謝罪に清酒1本と金五千円也を包んで漁師宅を訪ねた。私の謝罪に好感の様子だったが、其の時漁師の助言に痛く感ずるものがあった。その助言とは『貴男のボートが網に引っかかり、其の行動を始めから終り迄じっと見ていた。安全且つ早期脱出の為にメーンロープを切られたが、止むを得ない処置と思った。然しメーンロープを切った儘にして帰投されたが、メーンロープを切断されたら網はバラバラになって役をなさなくなる。今後、もし同じ様に網に引っかかった時は、後で必ず、ロープのエンドとエンドをしっかり結んで置いて下さい。今回は、後で私が結びに行きますから』、一瞬、鞭で打たれた様な改悟を感じた。漁師は魚を捕るため網が生活の絆であり、メーンロープは網の生命の絆である。其の生命の網を切った儘に放置した自分の愚かさをと責任の重さを痛感した。この日に刺し網に気づかなかったのは私の不注意であるが、刺し網は両端に赤旗の竿が目印で、メーンロープも浮いて見える筈。但し天気の具合では視認困難、至近距離で発見の時もあるので、小型船は充分注意して下さい。
以上
前ページ 目次へ 次ページ
|