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体育科学センター第9回公開講演会講演要旨/運動の習慣化と成人病予防


 2.加齢および運動と血中脂質

 血中脂質水準は種々の因子の影響をうけるが,その1つに加齢の影響がある.図2は演者が調べた東京およびその近郊在住健常者男性744名,女性495名の合計1,239名の血清総コレステロール値の分布を年齢別に示したものである.血清コレステロール値の平均値は男女とも加齢とともに上昇し,そのバラツキも大きくなってくるのがわかる.血清トリグリセリドの分布はとくに顕著であった.
 加齢にともない血中脂質水準が上昇するのは,既述したように,食事性脂肪によるフィードバック調節の機能低下および脂肪摂取量の増加が考えられるが,加齢にともない脂肪摂取量が増加する明らかな証拠はない.
 さらに,血中脂質水準は日常の肉体活動の程度によっても影響される,と思われる.図3は1日約10時間自動車教習所で実地指導をし,日常の身体運動はほとんどしない中高年の自動車教習所教官72名と職業はいろいろであるが,週3〜5回の頻度でランニングをしている中高年鍛練者36名の血清コレステロール(T.C.),トリグリセリド(T.G.),遊離脂肪酸(FFA)および肥満度(Rohres's index)を比較したものである.中高年鍛練者では,T.C.,T.G.,FFAおよびローレル指数いずれも統計的に有意に低値である.図4は,日常の運動習慣の有無によって運動群,非運動群に区分し,それら2群のT.C.,T.G.およびローレル指数を経年的に比較したものである.一般に,T.C.,T.G.およびローレル指数は運動群が低値であったが,平均年齢17.0歳の高校生では運動群が高値であった.
 肥満傾向と血中脂質濃度とは明確な関連は認められなかったが,ローレル指数165を示す者とローレル指数115のるいそう者群のT.G.,T.C.を比較すると,肥満度のそれが有意に高値であった.しかし,肥満していても日常トレーニングしている群(重量級柔道部員)では有意に低値であった.
 図5は鍛練者,非鍛練者の血清C-HDLを示した.鍛練女性とは第1回東京国際女子マラソン参加者のうち日本選手(31名)である.それのC-HDL平均値は75.6±13.4mg/dlであり,外国選手の70.2±8.7mg/dlよりやや高値であった.図5中非鍛練群とは,当病院職員であり,鍛練群のC-HDL値より低値であった.
 以上のことから,血中脂質濃度は加齢や食事の影響をうけ,肉体活動の少ない者では,その濃度が高く,日常習慣的にトレーニングしている者では明らかに低値を示すことがわかった.また,たとえ肥満していても日常トレーニングを続けている者では運動していない肥満者よりも低値であることが示された.



図2 年齢別血清総コレステロール値(井川)


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