?章 高齢者の体力低下とその防止方策
プロジェクトのねらいとまとめ(高齢者体力向上対策専門委員会)
委員長 青木 純一郎
高齢者の体力減退プロセスとその防止対策(その2)
本委員会は,高齢者の体力面からQOLの向上に寄与することを目的に,平成9年度より3年計画で,高齢者の体力あるいは体力を構成する箇々の要素がどのようなプロセスを辿って減退するのかを明らかにし,それらの減退を防止する具体的な方策を探ることをねらって研究活動を展開している.
本年度はその中間年に当たり,各班は概ね次のような内容の研究を行った.
[形本・青木班] 中高年女性30名および同男性20名を対象に,歩行速度と下肢筋力の指標としての「椅子起立時間」におよぼすトレーニング効果を検討した.
トレーニングは,ストレッチ,動きづくり,筋力運動,有酸素運動などを主体としたトレーニング教室で,1日75分,週2日,6週間通うことによって,歩行速度および椅子起立時間のいずれにも有意な改善が認められた.しかし,両者の間には有意な関連性は認められなかった.
[鈴木班] 独居または家族と同居する51〜75歳の女性214名を対象に,特に平衡機能を中心とする体力の他,ライフスタイル,生き甲斐等について検討した.
その結果,独居者では「健康でないと生活していけない」という気持ちが運動を重視するライフスタイルに反映していることが伺われた.そのため,平衡性(重心動揺,閉眼片足立ち)や敏捷性(棒つかみ反応)の機能水準が高く保たれ,日常生活における転倒等の事故が少ないことが観察された.
[岩岡班] 高齢者の日常生活動作パターンとそれに及ぼす体力因子の影響を検討するため,体力水準の高い女性5名(57〜68歳)を対象に,4種類の異なる高さの椅子からの立ち上がり動作について解析した.
その結果,体力水準の高い中高年女性は,同動作時の体幹前傾角度,股関節屈曲角度および膝関節屈曲角度が,若年者と比較して,同等もしくは優れていることが示された.
[荒尾班] 前報と同じ秋田県の農山村地域で自立生活を営む65歳以上の高齢者の77.9%に相当する731名を対象に,生活体力と日常の生活状況との関係について検討した.
その結果,男性では睡眠時間が短く,趣味・稽古事をよく行う者ほど,また女性では睡眠時間が7〜9時間で,運動・スポーツをよく行う者で,それぞれ生活体力が高いことが認められた.
[田畑班] 43〜70歳の中高年女性10名を対象に,それぞれの泳力に合わせて疲労困憊まで泳速を増加させ,水泳中の酸素摂取量を測定した.その結果,水泳中に得られた最高値27.6±7.2ml/kg・分は,トレッドミルで得られた値32.2±6.4ml/kg・分にくらべ,15%ほど低い値であった.今後測定機器がより改善されれば,水泳中の酸素摂取量の測定がより容易になり,水泳トレーニングの効果の判定に役立つことが期待された.
[宮村班] 昨年に引き続いて,富山県庄川町に在住する60歳以上の高齢者69名を対象にほぼ同様の調査を行った.今回は昨年と同一の対象者であったその内の46名について特に調査のポイントを置いて追跡した.
その結果,体力面およびライフスタイルの面で,特に顕著に変わった点は見いだせなかった.ただ,昨年と比べて,「体を動かす量」が増えたと答えた者が,逆に減ったと答えた者を僅かに上回った.
[淵本・金子班] 下肢筋力と歩行能力との関係を明らかにすることを目的に,40〜89歳の女性161名を対象に,膝関節の伸展力,足関節の底屈力と背屈力並びに自由および最大歩行の速度,歩幅および歩調を測定した.
その結果,歩行速度と歩幅は,下肢筋力がある閾値(例えば,膝伸展力は250N)以下になると低下し,それ以上では変化しないことが明らかとなり,両者が密接に関係していることが示唆された.
[木村班] 高齢者の日常生活における運動習慣脚力,情緒および生活面に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,4年前に調査対象となった29名の高齢者について,追跡調査を行った.
その結果,高齢期における運動習慣は,身体的な加齢変化を抑制し,情緒を安定させ,人間関係や生活面に好影響をもたらし,高齢者のQOL向上に重要な働きをしていることが示唆された.
前ページ 目次へ 次ページ
|
|