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   研究方法
 1.被検者  被検者は,課外活動としてサッカー部に所属する高校生男子1年生9名(以後,H1と略す),2年生8名(H2)および3年生8名(H3)であった.被検者の身体特性については表1に示した.被検者は全員が同一の校区内の者であり,中学校!年生時より学内の課外活動としてサッカーを経験しており,高等学校では1週間当たり平均4日の頻度で1日に約2時間の練習を実施していた.その練習内容はゲームおよび技術・戦術面の強化が中心であり,チームとして体重を負荷とする運動以外に特別な補強トレーニングを実施していなかった.測定に先立ち,被検者には研究の目的,測定の内容および安全性について説明し,本人および保護者から測定参加の同意を得た.

 2.測定項目
 本研究では,筋厚,筋力,間欠的全力走におけるパワーを測定した.各項目の測定手順は以下に示す通りであった.
 (1)筋厚
 7.5MHzのリニアプローブを装備した超音波測定装置(ALOKASSD-2000)を用い,下肢4カ所における筋厚を測定した.測定の手順および位置は安部と福永りにより提示されているものと同一であり,右脚の大腿前,大腿後,下腿前,下腿後における筋厚を測定した.

 (2)筋力
 等速性筋力測定装置(CybexII)を用い,脚伸展および屈曲における筋力を測定した.測定脚は右脚のみであり,測定速度は60,180,300度/秒の3種とした.測定に先立ち,被検者には各測定速度において最大下努力での脚伸展および屈曲動作を反復させ,測定装置および設定速度に対して慣らさせた.所定のウオーミングアップ終了後,最大努力の脚伸展および屈曲動作を各設定速度において3回から5回行わせ,各動作におけるピークトルクを記録した.各設定速度における最大のピークトルク値をその速度での等速性筋力として採用し分析に用いた.

 (3)間欠的スプリント走におけるパワー
 Gymrol社製のエルゴメータ「Sprint Club」を用いて,間欠的スプリント走(5秒間の全力走を10秒間の休息を間に挟み10回反復)におけるパワーを測定した.エルゴメータによる走パワーの測定は,これまでに非電動型の自走式タイプ5,11,12),あるいはトルクモータによってベルトにかかる摩擦抵抗を除去するタイプ7)の2通りの装置を用いて実施されてきている.本研究で用いたエルゴメータは後者のタイプに属するものであり,被検者の体重によって生じる摩擦抵抗を取り除くために,一定のトルクを発揮することのできるモータが搭載されている.
 間欠的スプリント走テストの実施に先立ち,被検者にはエルゴメータ上での動作遂行に慣らさせるために,まず歩行動作を行わせ,続いて3分間から5分間の最大下努力での走動作を実施させた.エルゴメータ上での最大下努力による走運動に十分に慣れた後,最大下努力から最大努力まで徐々にベースアップさせる走動作を,休息を挟み2〜3回行った.それら一連のウオーミングアップが終了した後,5秒間の全力走を10秒間の休息を間に入れて2回実施することで,被検者にテスト中の運動と休息時間の長さを確認させ,スタート直後からの全力走の徹底を図った.
 以上の手順がすべて終了した1時間後に,上記のプロトコルに基づく間欠的スプリント走を実施した.走運動中の測定パラメータとして,5秒間の平均牽引力および平均ベルト速度を求めた.牽引力は被検者の腰部ベルトとトレッドミル後部を結ぶロッドに直列に連結されたフォーストランスデユーサにより検出した.ベルト速度はエルゴメータ前部のドラムに取付けたスピードメータにより検出されるドラム回転速度から算出した.ベルト速度のキャリブレーションは,エルゴメータのベルトに5cm間隔でマーキングし,ハイスピードビデオカメラ(NAC社製)での撮影(200Hz)から求めたベルト速度との比較により行った.ドラム回転速度から求めたベルト速度とカメラ撮影によるそれとの間には,r=0.998の相関関係があり,両計測値間の差は3%以内であった.したがって,本研究ではドラム回転速度をベルト速度として計測した.平均牽引力と平均ベルト速度の積により5秒間の走運動中の平均パワー(MP)を算出した.

 3.統計処理
 測定値は平均値±標準誤差により示した.グループ間の差の有意性については,一元配置分散分析を行った後,Scheffeのテストにより検定し,5%水準でもって有意とした.また,筋厚に関しては,本研究と同一の測定方法を用いた先行研究1,5)の結果に基づき,高校生サッカー選手全員と一般成人男子42名(身長:168.2±0.9cm,体重:64.1±1.3kg)およびサッカーのオリンピック日本代表選手(身長:176.0±1.6cm,体重:73.3±2.1kg)との比較を行った.


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