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バレー部に所属している女子中学生の食生活の実態調査


 考  察
 本研究では,体格や活動量などの個人の違いを考慮するため,1日当たりのエネルギーならびに栄養素摂取量から体重当たりの エネルギーならびにたんぱく質摂取量あるいは栄養素密度を求め,当該年齢の栄養素密度に換算した栄養所要量8)と比較検討 することによって栄養摂取水準を評価した.その結果,対象者のエネルギー,たんぱく質,鉄およびビタミン類の摂取水準が概ね所要 量を充たしたものであったのに対し,前報4)の男子中学生を対象とした調査結果と同様,本研究の女子中学生においても脂質の過剰 摂取と食物繊維の摂取不足がみられ,さらにカルシウムの摂取不足の問題が指摘された.
 カルシウムは,健康な骨づくりにとって重要な栄養素である.とりわけ女性では,成長期の骨づくりが晩年の骨の健康にとって重要な 影響を及ぼすものとなる.そのカルシウムの充足率は,3年生が113%と所要量に達していたものの,1年生では77%,2年生では52%と大き く所要量を下回っており,カルシウムの摂取不足が深刻な問題となっている可能性が考えられた.
 国民栄養調査成績10)によると,平均した日本人の栄養素等摂取状況のうち,所要量の水準に達していない栄養素は唯一カルシウムだけ である.しかし,年齢階級別にみていくと,7〜14歳までの男女はともにカルシウムの摂取量が所要量に達している.この年齢層は,学校 給食法の制度に基づき,学校給食で所要量の55%に相当するカルシウムを含む食事を提供されている.対象となった私立中学校では,学 校給食が提供されておらず,家庭で作られたお弁当を昼食時に食べていた.食事記録や写真をみると,昼食時に持参した何らかの飲料を 各自が摂取していたが,1,2年生では牛乳を選択しているものは一人もいなかった.またカルシウムが含まれている飲料としてカフェオ レ,ミルク紅茶などがみられたが,牛乳や乳製品と比較するとこれらの商品に含まれるカルシウム含量は少なく,十分なカルシウムの供 給源とはいえない.豆類,緑黄色野菜,その他の野菜,魚介類,小魚類などもカルシウムの供給源にはなるが,そのサービングサイズ(1回の 摂取単位)とそれぞれの食品のカルシウム含量を考え併せると,毎日乳・乳製品を1〜2回摂取することが十分なカルシウムを確保するた めの重要なポイントとなる.学校給食では毎日1本(200mL)の牛乳が提供されているが,カルシウムの確保に関してこの学校給食の果たす 役割は大きい.対象校のように学校給食がない場合,ただ単に家庭での食事管理にだけ任せるのではなく,学校の中で不足しがちな栄養 素を確保するための積極的な食教育の介入を行う必要があると思われる.
 PFC比は,食事のバランスを検討する際の重要な指標であるが,中学生期における望ましい脂肪エネルギー比率が25〜30%とされているの に対し,本研究の対象者の脂肪エネルギー比率は各学年とも30%を超えており,脂質の過剰摂取の問題が明らかとなった.一方,食物繊維の 摂取量は,1日20〜25g,あるいは10g/1,000kcalの目標摂取量に対し,対象者の摂取量はその約半分であり,目標摂取量を充足していた対象 者は皆無であった.このような脂質の過剰摂取および食物繊維の摂取不足といった過剰と不足の問題の混在は,前報4)の男子中学生の問題 と共通したものである.食生活の欧米化に伴う動物性食品の摂取量の増加,ならびに穀類や野菜類などの植物性食品の摂取量の減少といっ た問題を改善するためにも,適切な主食の確保,植物性食品を利用した副菜,副々菜料理の摂取を促すような具体性のある食教育が必要であ ろう.
 本研究では,栄養素密度から見た所要量に対する充足率という基準化された数値を用いて主成分分析を行い3因子を抽出することによって, 対象者の食事全体の特徴を把握することを試みている.抽出された第1因子は,該当する栄養素からビタミンB1や鉄を含む穀類,ビタミンAや 鉄を多く含む緑黄色野菜,ビタミンCを多く含む野菜類や果物類,そして食物繊維の供給源となるこれら植物性食品を表していると解釈でき る.その寄与率45%であったことは,このような栄養素を多く含む食品を使った「主食,副菜料理の摂取」で,対象者の栄養摂取状況の特徴の 約半分を説明することができる.第2因子は「主菜や乳・乳製品の摂取」と解釈したが,植物性食品の摂取と,動物性食品の摂取に関する特 徴が第1因子,第2因子にはっきり分かれたことは,興味深い点である.第3因子では,脂肪エネルギー比率の因子負荷量が0.966であるのとは 対照的に,糖質エネルギー比の因子負荷量が-0.953であっ.た.このエネルギー摂取の軸の上では,体重当たりのエネルギー摂取量の変数は 因子負荷量-0.647と,糖質エネルギー比の側に位置している.この位置関係は,エネルギー摂取量が少ない対象者では脂肪エネルギー比率 が高く,エネルギー摂取量が多い対象者は,主食などを適量摂ることによってエネルギーの確保と脂肪エネルギー比率の増加を抑えている ことを示唆していると考えられる.このような食事構造から見た脂質ならびに糖質エネルギー比と体重当たりのエネルギー摂取量との関 係は,男子中学生を対象とした分析結果でも同様であり5),思春期,青年期の食事構造を検討する際のひとつのキーポイントとなろう.
 自記式質問紙調査からは,対象者は食意識が低いわけではないが,食情報に対する関心は薄いという結果が得られた.例えば,栄養の情報 先として約半分の対象者が「家族」をあげているが,学校教育では家庭科などの時間に栄養に関する教育が行われているはずである.し かし調査時点では,対象者は学校における食教育と栄養に関する知識との結びつきが認識できていなかった.
 このような集団を対象として食教育を考える場合,どのような点に注目した教育を展開することが必要であろうか.食事全体の構造と食 意識や食情報に対する関心などとの間に何らかの関連性があるとすれば,それは食教育を展開する上でその方向性を示唆する情報となる 可能性がある.主成分分析の試みによって抽出された3因子の因子得点と,形態測定結果や質問紙調査から得られた食生活状況に関する変 数との間には興味深いいくつかの関連がみられた.例えば,体重ならびにBMIと第2因子「主菜料理や乳・乳製品の摂取」,第3因子「エネ ルギーの摂取」との間にみられる正の相関係数は,動物性食品の摂取や脂肪エネルギー比率が体格と関連する可能性を示唆している.ま た,第3因子「エネルギーの摂取」と食習慣や食情報に対する関心との相関係数は,脂肪エネルギー比率が高いという特徴が「間食や夜食 では甘くない菓子を選び」,「家族から栄養に関する情報を得ている」こととマイナスの関係にあることを示している.
 発育期であり自立期でもある中学生期に,適切な栄養を確保するための食品の選択能力を高める,さらには将来の健康につながるような食 習慣を身につけることを目的とした食教育を実施することが重要である9,14).そのさい,間食や夜食の摂り方,コンビニの上手な利用方法 といった,具体的な食品選択能力を高めるような教育を実施するのと同時に,食意識や食情報に対する関心を高めるような動機付け,家族 や学校との連携などの食環境の整備といったことも必要であると思われる.


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