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プロジェクトのねらいとまとめ(青少年体力向上対策専門委員会)


委員長 加賀谷 ?彦
「生きる力」の基盤としての体力の充実を
 27巻にも述べたように,1996年度の第15期中央教育審議会第一次答申により,「生きる力」を育むことがこれからのわが国の 教育のあり方の基本的方向になることが明らかになり,そこにはたくましく生きるための健康や体力が不可欠であることが強 調されている.しかし,現在のわが国の青少年の体力には,形態の大型化に機能発達が伴わないという1960年代に指摘された状 態がさらに強く見られ,特に平成期に入ってからの状態はさらに悪化している.その原因は,すでに各方面で指摘されているよ うに,生活の機械化に伴う身体活動量の減少によるものである.この現状への対応は今後の体育・スポーツ教育に課せられた大 きな課題である.
 これも27巻に示したことであるが,この課題に対応すべく,体育科学センター運動処方専門委員会は平成6年度から3年間にわた って,「学校運動部活動のあり方に関する研究」をテーマにして研究活動を行ってきたが,さらに,平成9年度からは,青少年体力 向上対策専門委員会を発足させ,これまでの成果を踏まえながら,さらに研究を進展させることにした.9年度の研究成果について はすでに「体育科学」27巻に報告している.本28巻では,前年度の研究を継続し,これを発展させる方向で作業を行ってきた.個々 の研究については各担当者の詳細な報告があるのでこれに委ね,ここでは各報告の意義,特徴を紹介することにした.

北川たちの報告について
 本報告は,J.リーグ傘下のジュニアユースサッカー選手を対象に,10ヵ月間にわたる週5回1回90分間のサッカーのトレーニングが 選手の形態と機能に及ぼす影響を検討したものである.結果のあらましは次のとおりである.
 1.身長・体重は増加し,皮下脂肪厚は減少した.
 2.等速性脚伸展力・屈曲力および脚伸展パワーは増大した.
 3.30メートル走能力,50メートル走能力は向上した.
 4.最大酸素摂取量は増大したが,体重当たりの値は減少した.
 以上の結果により,10ヵ月間のトレーニングは,除脂肪体重の増加,全般的に高いレベルでの体力の向上・維持という好ましい影響を 与えたということができよう.しかし,体重当たりの最大酸素摂取量が減少したという結果は注目すべきものであり,今後のトレーニ ング計画の改善の必要を示唆するものであろう.
 27巻でも述べたように,J.リーグ傘下のジュニアユースサッカー選手は,これまでの日本のスポーツ選手とは異なる存在である.それ だけに,彼らを対象にした本研究はこれからの発展が期待される大切な研究といえよう.今後,発育期の青少年のスポーツが従来の学 校スポーツだけではなく,社会スポーツ,地域スポーツとしても拡がりを見せることは明らかであるだけに,この種の研究は貴重である.

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