体育科学センター第5回公開講演会講演要旨 2
心拍数による運動処方
石井 喜八
体育科学センターでは昭和46年から運動処方専門委員会を設け、プロジェクト研究を発足させてきた。それ以来、幾多の
研究業績が積上げられ、それらをもとにして「体育科学センター方式=健康づくり運動カルテ」というエアロビックス日
本版というところの運動処方の指導書普及版が刊行されている。
その運動処方では、運動の種類、運動の強度、その持続時間、それに週あたりの頻度を組合せたトレーニングの条件がその
効果を有効にし、また、長期間続ける要因となっている。一方、トレーニングの効果を有効にする他の条件として、運動実践を
する側の問題がある。すなわち、性、年齢、体力、職業、生活環境など個人差を生じさせる要因を考慮して、それぞれに適した条
件を選ぶことが重要な事柄であるとした。この運動処方の指導書では、まず全身持久性の運動として走行という運動様式を
中心にして処方を展開しているわけである。
1回の運動が30分を超える持続時間であったり、また、トレーニング効果があらわれてくる長期間にわたってのトレーニ
ングを継続するためには、気候や天候などの理由で運動をする場所やそれにもとづく運動様式を変えてトレーニングを代
償する必要性が生ずる一方、持続運動中に生ずる飽きや疲労による集中力の低下を招来することから、運動様式を変化さ
せることにより興味づけをしたり、楽しみを感じながら継続できる要素が要請される。
そのためにも、いろいろスポーツ化した運動様式を用いることはトレーニングを継続させるために無視できない要素で
あると思われる。そのためには各種の運動様式による生体の負担度を共通の指標でとらえるようにしておきトレーニング
プログラムの長期実践を柔軟的に行えるよう運動様式や運動の場所の変更が容易に行えるように準備しておくことが重
要であると思われる。
実験室では生体の負担度をいろいろな指標であらわすことができるが、現場ではいろいろな指標を駆使することはきわ
めて困難である。これまで、現場における生体の負担度を見計らうについて、経験や勘を頼りに息使いや発汗、運動能力の低
下、フォームの変化、あるいは顔面や口唇の貧血などによってとらえるいくつかの目安がそれぞれの指導者に持たれていた
ようですが、全体的にいって、これらは最大努力に近い状態での生体の反応ということができる。しかし、生体の負担度を何
んらかの客観的指標によってとらえ、それが容易に簡便にとらえることが望まれる。
そんな意味において、心拍数は1つの手掛りを与えてくれる。心拍数とは1分間の心室拍動数であり、心臓の上から聴診や
触診で容易にはかることができる。これに対して、脈拍数とは勁動脈や僥骨動脈など末梢動脈を伝播する脈波の1分間値で
あらわされる。これらは健常人では全く一致する。
日本体育大学
於:順天堂大学有山記念館講堂 昭和52年6月4日
前ページ 目次へ 次ページ
|
|
|