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体育科学センター第4回公開講演会講演要旨2
調整力について
松浦 義行


 今日まで運動能力の要素として筋力、敏捷性、柔軟性、持久力、正確性、平衡性等々が見出され、因子分析等の統計的方法で 検討されたり、筋力や持久力のように生理的メカニズムが明らかにされて来たものもある。かかる運動能力の1つの要素と して、運動協調能力、協調性、巧緻性、運動制御能力、身体制御能力;motor coordinationl, motor control,body coordination,body controlなどと呼ばれる能力も見出されて来た。調整力という言葉が使用されるよう になって以来、これらの言葉の使用は少なくなった。運動協調能力と同意義語として調整力が用いられているように考え られる。調整力の英語訳がcoordinationであることからも、徒来の運動協調能力と同意語と考えてよいであろう。
 すでに述べた諸々の運動能力要素の中でも調整力に関する研究は比較的少ない。それは、この能力の測定がむずかしい 事と、人間がなんらかの身体運動を成就する時には、例外なくこの能力が関与しているからである。しかも、従来は、敏捷性、 柔軟性、平衡性、筋力と同様、これらの能力は、あらゆる運動に程度の差こそあれ関与するものという仮設のもとに調整力を 多くの運動成就から抽出しようと努めて来たが、ほとんどの研究が必ずしも満足のゆく結果を導き出すことが出来なかっ た。20年ぐらい前から、調整力には一般調整力というがごとき能力は存在するものではなく、運動パターンの各々に特有な 調整力が存在するのであるという。調整力はcommunalityよりもむしろuniguenessが大であるという考え方が広く認識され るようになった。この時以来、調整力の研究も、この仮説のもとに促進された。しかし、運動成就テストを測定の手がかりとす る限り、テストの作成がむずかしいということが、再び研究促進の障害となっている。


筑波大学
於:国立科学博物館 昭和51年6月5日


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