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 本研究の対象者の中には現在定期的に運動をしている者は1例もいなかったが、高校時代または中学・高校時代を通して運動 部に所属していた者(EX群)と運動部への所属経験のない者または中学時代のみ所属していた者(N-EX群)を比較した(図)が、開・ 閉眼重心動揺測定値(LNG、LNG/T、LNG/E.A.、)、ロンベルグ比および握力、背筋力にはまったく差異はなかった。また、開眼片足立ち 保持時間にも2群間に差異はなかった。しかし、閉眼片足立ち保持時間および閉眼/開眼片足立ち保持時間の比はN-EX群に比較 しEX群が有意(p<0.05)に長かった。このことは、2年前まで運動部に所属し定期的に運動していた者では視覚に依存しない、他の 体性感覚系情報による姿勢調節能力に優れていたことを示している、と思われる。この種の能力はどのような機構によって発 揮されるのかは明かではないが、橋詰たち1)が言うように、閉眼片足立ち保持時間の測定は両足で立つ閉眼立位姿勢によって測 定される重心動揺や動揺面積測定値とは本質的に異なるのかも知れない。一方、種田たち8)は、閉眼片足立ち保持時間の測定値は バラツキが大きく、信頼性の乏しい検査であり、高齢者には開眼片足立ち検査の方が望ましい、と述べている。実用的観点からは, 種田たち8)の意見のとおりであるが、日常生活における高齢者の転倒し易さに関与しているのは、視覚情報を除いた、いわゆる閉 眼片足立ち姿勢維持に貢献している機能であるかも知れず、この機能の解明には興味がもたれる。

 まとめ
 姿勢調節能力の指標とされる開・閉眼重心動揺測定値と開・閉眼片足立ち保持時間との関連やこれら姿勢調節能指標と 筋力(握力、比握力、背筋力、比背筋力)との関連を調べる目的で、19〜21歳の健康女性48名を対象に開・閉眼重心動揺、片足立ち 時間、握力、背筋力の測定を行った。また、調査用紙を用い中学・高校時代の運動実施状況を調べ、運動歴と姿勢調節能力指標や 筋力との関連も調べた。
 重心動揺計を用いて、ロンベルグ姿勢による30秒間の重心動揺の総軌跡長(LNG)、単位時間あたりの軌跡長(LNG/T)および単 位面積あたり軌跡長(LNG/E.A.)を開眼および閉眼でそれぞれ2回ずつ測定し、LNGの短い方の測定値を採用した。開・閉眼片足 立ち保持時間の測定もそれぞれ3回ずつ測定し、優れた測定値を採用した。握力は左右交互にそれぞれ3回ずつ測定し、左右とも 最も高い値を選び、その平均値を握力測定値とした。背筋力は2回測定し、高い値を背筋力測定値とした。握力、背筋力を体重で除 した比握力、比背筋力も算出した。また、アンケート用紙を作成し、現在や中学・高校時代の運動実施状況なども調査した。
 開眼時と閉眼時に測定したLNG、LNG/TおよびLNG/E.A.の間に相関係数0.528〜0.681(いずれもp<0.001)が与えられた。一方、開 眼と閉眼片足立ち保持時間の相関係数は低かった(r=0.322、p<0.05)、開・閉眼時の種々の重心動揺測定値と片足立ち保持時間と の間にはまったく関連性はなかった。また、握力、比握力、背筋力、比背筋力と種々の姿勢調節能指標との間にも有意な相関係数 は得られなかった。一方、高校時代または中学・高校時代に運動部に所属し定期的に運動をしていた者(EX群)はN-EX群に比較 し閉眼片足立ち保持時間および閉眼/開眼片足立ち保持時間の比が有意(p<0.05)に高かった。
 若年女性を対象とした本研究結果から、両足による立位姿勢時の重心動揺測定値と片足立ち保持時間の測定の意義は異なり 、片足立ち保持時間の測定は重心動揺測定の代用にはなり得ないことが示された。また、近い過去の習慣的運動は下肢の筋や腱 における深部感覚受容器からのフィードバック機構による片足姿勢保持能力を高めることが示された。しかし、これらの下肢 筋機能は、簡便に測定される握力や背筋力測定値からは推測されなかった。


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