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 2.平衡性指標
 立位姿勢は主として視覚系、前庭迷路系、および固有感覚系などからの求心性情報に基づき,立ち直り反射や筋緊張支配、四 肢・躯幹の共同運動などによって制御されている32)。姿勢制御系の評価は種々の課題によって評価されてきたが、Rom-berg 姿勢での重心動揺の測定は、主として前庭迷路系の機能を評価する平行機能検査の代表的なものである。上位中枢を含む固有 感覚系については外乱に対する姿勢保持反応をみる方法9,28)などが用いられている。今回、重心動揺パラメーターとして加えた 課題は、転倒寸前まで躯幹を傾ける姿勢の保持能力をみるものである20)
 安楽立位での重心動揺軌跡長が年齢とともに増加するのは先行研究8,18,24,26)と一致する結果である。重心動揺面積も 加齢に伴って増加するとの報告が多く、重心動揺量の増大は加齢変化の特徴の1つと考えられる。しかし、橋詰ら6)は、安楽立位 での重心動揺量は、半数以上の高齢者が若い年代が示す範囲にあり、加齢変化はそれほど著しいものでないが、躯幹を最大限前 後に傾けた重心位置の移動範囲A-P%は、20〜30歳代56%、以後60歳までほぼ一定の減少をした後、70歳代で33%、80歳以後では 11%まで低下することを報告している。すなわち、静的な立位姿勢の能力が低下していない者でも、より動的な姿勢調節能力は 著しく低下していることであり、これは安楽立位の従来の重心動揺の測定では計りえない姿勢保持能の加齢変化の重要な特 徴であろう21,24)。60歳以上を対象にした本対象者の場合も、A-P%には明らかな加齢変化が認められる。このA-P%の年代別 平均値は,橋詰ら6)と比較すると、60歳代、70歳代では本対象者が低く、80歳代では高値であるが、他の報告20,22,24)では20歳代で 約60%、高齢者(平均年齢70歳程度)で20〜30%であることから、本対象者で示された男性29.9±11.2%、女性28.6±10.7%(平均年 齢はそれぞれ73.5歳、71.1歳)はほぼ妥当な値と考えられる。
 一方、従来から用いている片足立ちテストにおいても、成績は年齢とともに明らかな低下を示す。ただし、このテストの年代別 平均値を一般高齢者のもの16,17)と比較すると、開眼、閉眼ともに男性では80歳代以外はやや高値を、女性においてはすべての年 代で報告値を上回る。高齢者においては、日常的に軽い運動の習慣のある者はない者に比べ重心動揺量が少ない11)ことや、太極 拳や社交ダンスなどを継続している者は他のスポーツ実施者より片足立ちテストの成績が優れること19)が認められている。 太極拳などへのスポーツ教室参加者を含む本対象者で、平衡性においても一般高齢者をやや上回る成績が示されたのはこれら の報告とも一致する。
 高齢者においては、片足立ちテストおよび重心動揺量とも閉眼時が開眼時に比べ成績が悪く、特に後期高齢者になるとRomberg 姿勢のとれない者や閉眼片足立ちの困難な者が増えてくる。これらの事実は、迷路系や固有感覚系の機能低下が著しいことを 示唆している。加えて、重心位置を随意的にシフトさせる課題からは、抗重力筋群における協調性の乱れや機能面の低下が示唆さ れ、転倒に対する恐怖心を顕在化させ、一層パフォーマンスを低下させていることが推察できる。


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