?章 高齢者の体力低下とその防止方策
プロジェクトのねらいとまとめ (高齢者体力向上対策専門委員会)
委員長 青木純一郎
はじめに―高齢者の体力減退プロセスとその防止
運動不足が原因となる体力低下が生活習慣病の引き金として大きな役割を果たすことは良く知られている。
しかし、どの体力要素が、どの水準まで低下すれば、どのような生活習慣病と関わってくるのか、それはなぜかなど、対応策を
たてるために必要な肝心な点についてはほとんど明確にされてはいないのが現状である。特に、ライフステージ毎の、健康に
関わる体力要素の同定、評価方法の確立、および測定方法の標準化は、体育科学の研究分野においても、解決されるべき急務の
課題であるといえる。
このような観点から、特に高齢者に対象を絞り、高齢者の体力があるいは個々の体力要素がどのようなプロセスをたどって
減退するのかを明らかにすると同時に、それらの減退を防止する具体的な方策を探り、高齢者の体力あるいは運動面からのQO
Lの向上に寄与する研究活動を展開することとした。
各班が主として高齢者の体力の実態把握を狙いとして取り組んだ、初年度の研究内容の概要は以下の通りである。
[形本・青木班] 41歳から65歳までの一般中高年女37名と男子13名を対象に、歩行能力と健康関連体力との関係および彼
らの日常生活における身体活動状況を調査した。体カテストとしては10mの最大歩行、体脂肪率、上体おこし、立位体前屈、反復横
跳びおよび垂直跳びを行った。その結果、体脂肪率、上体おこしおよび垂直跳びは歩幅および歩行速度のいずれとも有意な関係が
認められなかった。これに対し、反復横跳びは歩行速度(r=0.37、p<0.05)と、立位体前屈は歩幅(r=0.49、p<0.01)および歩行速度
(r=0.45、p<0.01)のいずれとも有意な相関関係を示した。
すなわち、柔軟性は歩行能力と関連性が深い健康に関係した体力要素であり、高齢者における歩行能力の維持向上における重
要性が示唆された。
[鈴木班] 19〜21歳の健康な女性48名を対象にして、姿勢調節能力の指標である開・閉眼重心動揺測定値と開・閉眼片足立ち
保持時間との関連およびこれら姿勢調節能指標と筋力(握力、比握力、背筋力、比背筋力)や運動実施状況との関連を調べた。
その結果、両足による立位姿勢時の重心動揺測定値と片足立ち保持時間の測定の意義は異なり、片足立ち保持時間の測定は重
心動揺測定の代用にはなり得ないこと、および近い過去の習慣的運動は下肢の筋や腱における深部感覚受容器からのフィード
バック機構による片脚姿勢保持能力を高めることが示された。
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