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 本研究において測定の対象となった高校生の場合に、その練習内容はゲームおよび技術練習を中心とするものであった。それに 対し成人は過去においてハイスピード・ハイパワーの発揮要素の強いスポーツ種目の競技選手であり、測定時においても体力を 維持し得ると考えられるトレーニングを実施していた。サッカー選手における6週間のプレシーズントレーニングの影響を検討し たReillyとThomas31)の結果によれば、トレーニング後に循環機能に関するテスト結果は改善されたが、筋力のそれは低下したといわ れている。また、60秒間のジャンピングパワーテスト4)をサッカー選手に適用したKirkendall22)は、シーズン中の変化として、30- 45秒の時間帯におけるパワー値が著しく改善されたと報告している。さらにWithers et al.37)の報告によると、Margariaテストの結果 はサッカー選手の場合に平均16W/kgであり、競技選手の値として先に述べた平均的な水準にほぼ等しい。これらの報告に加え、サッ カー部に所属する14歳男子を対象にした先行研究の結果20)によれば、最大努力の50回連続脚伸展による発揮筋力は、大腿四頭筋断 面積当たりでみると、同年代の運動部に所属していない者と同レベルであり、その発達にThorland et al.34)の報告にある短距離走選 手のような特徴は観察されていない。このような事実と本研究の結果を考え合わせると、課外活動としてサッカーの種目そのもの の練習を主体とするトレーニングの程度では、無酸素系エネルギー供給能を自然な身体発育に伴う発達以上に増進させることが 困難であることを示唆するものといえる。
 一方、エネルギー供給能における差とは別に、作業前半のパワーの発揮水準における高校生と成人の差異を説明する要因として, 作業前半の走動作そのものに両グループ間で違いが存在した可能性のあることも考慮に入れる必要がある。すなわち、400m疾走中 の速度逓減について動作様式との関連で検討した市川たち18)の報告によれば、後半の走動作の変容として、膝の上がりの低下、支 持脚スウィング動作速度の低下などを挙げている。また、尾縣たち30)の結果では、400m疾走中の速度逓減の程度は、膝関節より股 関節の伸筋群および屈筋群の持久性と強い相関関係にある。これらの報告は、股関節の伸展・屈曲に関与する筋群の機能低下が走 動作に変容を引き起こし、それが走速度の低下に結び付いていることを示すものに他ならない。本研究の結果において、作業後半に おけるMP/Wtには両グループ間で有意な差は認められなかった。したがって、成人におけるテスト中の動作変容として市川たち18) の報告が当てはまるとすれば、MP/Wtの低下率が低い高校生の場合に、成人の疲労した状態、すなわち、膝の上がりが低く支持脚スウ ィング動作速度の低い走動作により作業の初期段階からテストを実施していたことになろう。いずれにしても、本研究の結果は 、限られた種目および人数を対象にした測定から得られたものにすぎない。作業前半における高校生と成人との差が、エネルギー 供給能あるいは走動作の様式、またはその両方における違いに起因するものかは、今後さらに検討を要する課題である。

 要  約
 本研究では、高校期における定期的な身体活動の実施が間欠的全力運動時の発揮パワーに及ぼす影響について検討することを 目的として、サッカー部に所属する高校生男子と活動的な成人男子を対象に、トルクモータ型エルゴメータによる間欠的全力走 (5秒間運動、10秒間休息、10回反復)を適用し、走運動中の牽引力、ベルト速度、およびそれらの積による走パワーを測定した。その結 果、体重当たりの牽引力およびベルト速度は1セット目から5セット目まで、走速度は1セット目から3セット目まで、成人が高校生 より有意に高い値を示した。しかし、各測定パラメータにおける作業後半の値には、高校生と成人の間に有意な差は認められず、 低下率は牽引力が高校生13.4±2.10%、成人26.1±2.79%、ベルト速度が高校生18.6±1.88%、成人35.5±3.08%、走パワーが高校生26.7 ±2.50%、成人51.6±3.22%であり、いずれも高校生が成人より有意に低いものであった。 このような高校生と成人の違いは、無酸素系エネルギー供給能あるいは走動作の様式、またはそれら両方における差に起因するものであると考察した。



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