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吉田たちの報告について
 本報告は、中学校の運動部活動における運動量と部員の体力との関係を明らかにするこ とを目的としてなされたものである。競技能力の高い1中学校サッカー部に所属する部員 を、技能上位群と下位群に分けて形態と機能の比較を行い、また、練習中のエネルギー消 費量の比較をしている。形態的には、上位群の身長が大きく、下位群の皮下脂肪厚が大き な値であったという。機能的には、握力、背筋力、脚伸展力、時間往復走、全身反応時間、 PWC170および最大酸素摂取量について、いずれの項目においても上位群の成績が勝って いるという結果を得ている。
 練習は全員が同じ内容で行っているのにもかかわらず、個々人の運動量には差が見られ、 運動量の大きい者ほど体力水準が高い傾向にあったという。特に、ゲーム形式の練習にお けるエネルギー消費量は上位群が下位群よりも有意に大きく、このことから、運動量の大 小は主に技能水準に起因しているのではないかと推察し、したがって、部員全体が同じ内 容の練習を行っている場合は技能水準の高い者ほど体力の向上する可能性が高く、技能水 準が低い者との体力の差がますます広がることが予想されると述べている。
 中学校期は発育発達の盛んな時期にあり、また、そこには大きな個人差があるのが特徴 である。限られた時間の中での運動部活動の指導には様々な問題点があるが、技能の個人 差が活動内容に影響を及ぼし、そのことが体力の発達にも関与するのではないかという本 報告の指摘は指導上考慮すべき重要なものである。

稲山たちの報告について
 本報告は、上記吉田たちが対象とした中学校サッカー部員の食生活の実態調査の結果で ある。連続3日間にわたりレンズ付きフィルムを利用した食事記録調査を行い、食品群摂 取状況、エネルギーならびに栄養素摂取状況を明らかにしている。体重当たりのエネルギー ならびに蛋白質摂取量、および摂取エネルギー1,000kcal当たりの栄養素密度からみた栄 養水準は、平均的に概ね良好であり、発育発達の促進に有効であったと考えられるが、脂 質の過剰摂取、カルシウムの相対的摂取不足をもたらす食品選択の偏り、食物繊維の摂取 不足という問題点があったと述べられている。そして、このような問題点の要因として油 料理や肉類への偏り、穀類や野菜などの植物性食品の摂取不足を指摘し、さらに、食習慣 の自立期である中学生期に、将来の健康につながるような適切な食習慣を身に付けさせる ことの必要性を提言している。
 関係者の間では、以前に比べて現在の食糧事情は非常に豊かになっているが、運動選手 の食生活が充実しているとは限らないという指摘がしばしばなされている。本報は発育の 盛んな中学生運動部員を対象にした調査結果であるだけに、そこで得られた結果とそれに よる提言は重要である。


落合たちの報告について
 この報告も上記吉田たちが対象にした中学校サッカー部員についてのものであるが、内 容は、部員の心理的特徴に関する指導者への情報提供の有効性を論じるという他とは異な る視点からの報告である。本報では、数種の心理的テストを用いて部員の心理的特徴を把 握し、その結果を指導者に伝えているが、指導者の側は伝えられた情報が指導上参考にな るという評価を与えている。また、同じ部員でありながら、調査の結果には学年差があら われたことを示し、このことは2年生にとって指導者が替わった点にあるのではないかと 推測し、指導者の交代が部員の精神的側面にマイナスの影響をあたえる場合があることを 述べている。さらに、部員の生活態度と食生活との間の関係も論じ、節度ある生活態度の 大切さを述べている。
 これまでにも運動部員の心理的特性を論じる報告は多く見られるが、部員の心理的特徴 の情報を指導者に提供し、その有効性を確かめたという本報は望ましい運動部の育成上興 味深いものである。


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