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[?]へき地における在宅高齢者を介護する者の精神的健康度に関する研究


土井由利子 国立公衆衛生院疫学部
尾方克巳  熊本県天草保健所

?.はじめに
 総務庁は、1997年10月1日現在、日本の総人口を12,617万人と推計した。65歳以上の高齢者(老年人口)は、1,976万人(15.7%)で、15歳未満の子供(年少人口)1,937万人(15.3%)を上まわり、年少人口に対する老年人口の比率を示す老年化指数は100を超えた(102.0)。日本の老年化指数は今後も世界の最高水準で推移していくものと予測される。
 このような超高齢化社会に対応すべく、政府は国の大きな施策の一つとして、ゴールドプラン、都道府県および市区町村老人福祉計画、新ゴールドプラン等高齢者保健医療福祉の基盤整備をすすめてきた。2000年4月からは新しく介護保険法も施行される。
 近年高齢者や障害者のノーマライゼイションという考え方から、従来の施設重視から在宅重視の方向へ高齢者保健医療福祉施策の転換が計られようとしている。しかしながら、高齢独居者あるいは高齢の夫婦のみの世帯が増加し家族介護力の衰退が示唆される昨今、主介護者に加わる介護の荷重は想像に難くない。介護者が身体的のみならず精神的にも健康であることは、介護の質を向上させるだけでなく、介護放棄や虐待や自殺を予防するという観点からも重要であると考える。
 特にへき地における高齢化は日本の平均を上回り、高齢者に対する在宅介護施策の整備は急務である。本研究の目的は、在宅高齢者を介護する者の介護負担感や精神的健康度に焦点をあて、へき地における在宅高齢者介護施策を展開していくうえでの基礎資料を提供することである。

?.方法
A.対象
 1996年度の熊本県の高齢化率は全国平均約15%に対し約19%(全国第12位)であった。なかでも県南の有明海に位置する天草地域は県下で最も高齢化がすすんでおり、熊本県天草保健所管内15市町のうち11町が高齢化率25%を超えていた。そこで本研究では天草地域に在住する在宅高齢者で痴呆を有する者を介護する者(主介護者)を対象とした。15市町に勤務する保健婦が家庭訪問等の通常業務あるいは民生委員等から得た情報をもとに把握しえた痴呆を有する在宅高齢者(被介護者)は294人であった。

B.質問項目
 「在宅高齢者を介護する者の精神的健康度に関する調査票」を作成した。調査票は以下の質問項目からなる:?被介護者の属性(性、年齢、寝たきり度、痴呆による日常生活自立度、ADL、医療機関受診の有無、疾患の有無等)、?主介護者の属性(性、年齢、結婚、職業、学歴、嗜好、医療機関受診の有無、疾患の有無等)、?介護状況(続柄、世帯構成、在宅介護期間、在宅介護の内容、在宅介護の支援者、在宅介護サービスの内容や利用等)、?介護負担感(ザリット介護負担尺度日本語版:Zarit Caregiver Burden Interview 以下 ZBI)、?精神的健康度(精神健康調査票日本語版12項目:General Health Questionnaire 12 以下 GHQ12)、?睡眠(ピッツバーグ睡眠質問票日本語版:Pittsburgh Sleep Quality Index 以下 PSQI)。
 ZBIは米国のZaritが開発した介護負担尺度であり、22問の質問項目からなる。1-21問の各質問はそれぞれ、0:思わない、1:たまに思う、2:時々思う、3:よく思う、4:いつも思う、の5段階であり、0-4点まで負担度が大きいほど高得点になるように配点してある。また22間日の項目は、全体として介護がどのくらい大変であるかを、0:全く負担ではない、1:多少負担に思う、2:世間並みの負担である、3:かなりの負担である、4:非常に大きな負担である、の5段階で評価し0-4点まで負担度が大きいほど高得点になるように配点してある。したがってZBI総得点は0-88点となる(質問項目の詳細は表4を参照)。

 

 

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