[?] 山間へき地における痴呆症の危険因子の検封
村松 慎一 自治医科大学神経内科, 小林 文 長野原町へき地診療所
三室 淳 地域社会健康科学研究所止血血栓
中村 智 自治医科大学大宮医療センター脳神経内科
森岡 聖次 和歌山県立医科大学公衆衛生
?.はじめに
わが国の高齢化は諸外国に類をみない速度で進行中であり(1)、65歳以上の人口は2025年には3,300万人へと総人口の30%以上を占めるまで増加が見込まれている(2)。これに伴い、痴呆症老人の出現頻度も増加し、厚生省研究班では、2035年には312万人に達すると推計している(3)。痴呆症はアルツハイマー型、脳血管障害型、およびそれらの混合型に大別され、わが国においてはそれぞれの型が約1/3ずつを占める。アルツハイマー型痴呆の危険因子としてはアポリポ蛋白Eの表現型のうちE4が注目されており、E4を持つ人ではアルツハイマー型痴呆になる頻度が高く、発症年齢も若年化することが知られている(4)。また、脳血管障害型痴呆では動脈硬化の危険因子として高血圧、コレステロールに加え、凝固線溶系因子の動態が問題となる。
これまでに我々は高齢化の進む群馬県山間へき地においてこれらの危険因子について検討し、山間へき地においてはE4を有しながら痴呆にならない高齢者が多く存在すること、線溶系の主たる阻害因子であるplasminogen activatorinhibitor 1(PAI-1)は男性で女性より高い傾向にあることを明らかにした(5)。今回の研究では、これまでの研究を発展させ、1)疫学的調査により山間へき地においてはどのような環境要因が痴呆症の発症との関連において重要かを明らかにすること、2)PAI-1と並んで血管内皮細胞傷害の指標とされるThrombomodulin(TM)(6)や、脳血管障害の危険因子とされるHomocysteine(7)の血中濃度を測定しそれらの関連を検討することを目的とする。発症要因を明らかにする疫学研究手法としては、コホート研究が確立しており(8)、本研究では群馬県山間部農村の高齢者集団をコホートとして設定し、長期追跡のためのベースライン調査を実施した。
?.方法
A.疫学調査
1.対象地域
本研究は、群馬県吾妻郡長野原町(1995年国勢調査人口7,017人)で行った。長野県境の農山村で、第一次産業就業人口が19%と、高原野菜栽培を主産業とした地域である。65歳以上人口割合は1990年国勢調査で17.4%、95年国勢調査で20.9%である。ベースライン調査は、このなかの応桑地区で実施した。
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