ドイツ・スイスの音楽療法とホスピス視察報告
1998年8月11日〜20日
●見学施設
?12日 ラティーゲン市のホスピス活動協会
?13日 フランチスクス・ホスピス・ホッホダール
?〃
音楽療法士の多田・フォン・トゥヴィッケル・房代女史の自宅
?14日 ゲマインシャフト・クランケンハウス・ヘルデッケ
?15日 音楽療法士のマルリーズ・マウラー女史の自宅
?16日 ホスピス・イムバーク
?17日 ルーカス・クリニック
?〃 ヒスキア研究所
?〃 ゲーテアヌム
?18日 ホスピス・フォンダンオン・リヴヌーブ
?〃 クリニック・ラ・リニエール
?〃 ジュネーブ州立大学病院
●参加者
日野原重明理事長
高須克子,鈴木玲子(音楽療法士)
大野愛子,竹内和泉(ボランティア)
佐保田美紀,柿沼信子,武田俊雄,真壁綾子,増渕志計男,山下綾子(ピースハウス家族の会)
青木美紀子(看護学生)
間瀬知子,岸野めぐみ,グルーべ・佐藤・道子(スタッフ)
?.ドイツとスイスの音楽療法
ホスピスなど12カ所の施設を訪問したが,そのうち4カ所で音楽療法が行われていた。ドイツやスイスにおいて現在行われている音楽療法のうち,今回見学したものについて報告する。
ドイツとスイスの音楽療法は,ルドルフ・シュタイナーと彼の確立した人智学と深い関連をもっている。1861生年オーストリアに生まれたルドルフ・シュタイナーは,哲学・自然科学・数学・心理学・医学などを学び,人智学(アントロポゾフィー=今日の物質主義に対抗して,人間を肉体,心,精神からなる一元的な存在として捉える精神的かつ芸術的な科学)を展開した。教育・医学・治療教育・薬学・芸術(音楽・建築・絵画・オイリュトミー・造形)・農業・政治・社会運動といった具体的な市民運動レベルで,今日においても影響を及ぼしている。
シュタイナーは芸術療法を大切にしているが,音楽療法もその一つである。人間が病気になると,人智学でいう一元的な存在のバランスが崩れる。音楽の3つの要素のうちメロディーは頭脳に作用し,ハーモニーは呼吸に作用し,リズムは手足の運動や血液の循環,物質代謝を左右する働きがあるとするのがシュタイナーの考えで,弱った体の部分に対応する音楽の要素を,それに最も適した楽器で演奏して聴かせることで崩れたバランスを調整して病気を治していく。また,音列(トーンシステム)も重要な要素と考えられており,子供にはドとファを抜いた音階であるペンタトニックに調弦されたキンダーハーブが使われる。
人智学の考えに根ざした音楽療法士になるためには,スイスのベルンの近くにある社会療法的共同作業兼生活所(Humanus
Haus)での4年間(週1度)の勉強が必要とされる。入学基準もかなり高く設定されており,卒業時には論文だけではなく症例報告などが課されていて,音楽療法士になることはなかなかたいへんである。