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 このように,K音による血圧測定では,1相から5相まで確実に音の変化が識別されなければ正しい値は得られないので,測定時には常にこのことを心がけておかなければならない。そして,もし測定時によい音が得られないときには,いろいろな手技で音を大きく,かつ各相が区別できるように工夫する必要がある。よい音が得られないいくつかの理由の中で,カフ圧の上げ方の問題がある。カフ圧は,急速に上げなければならないが,圧をゆるやかに上げてから下げていくと,S1が出てから音が途中で途切れて,いわゆる聴診間隙を生じる。そうすると,次に音の出はじめるS3を最高血圧と誤ることがある。このような聴診間隙は,測定方法をいろいろと工夫することによって避けられる。休みなく繰り返し血圧を測ると,前腕にうっ血を起こすし,また,立位の血圧を測るときに上肢を下げたままにしてカフ圧を上げると,同様に前腕にうっ血をきたす。このことがK音を弱くし,聴診間隙の原因にもなる。
 ここでK音発生の機序を考えてみよう。イヌの下肢にカフを巻いて圧を加え,完全に血管を圧迫してから,徐々に圧を下げていく。そのときどきのいろいろな状態でレジンを流し込むと,血管の状態を鋳型にとることができる。完全閉塞のときには,血管が平らに押しつぶされているが,圧を下げていくと次第にこれが押し広げられていく状態がわかる。したがって,心臓側からだんだんと血液が入りこんでいき,この血液の柱が心臓の拍動に伴ってぶつかっていくことが叩打音を生じる。さらにカフ圧が下がって圧迫された血管が開通するときに,先に述べたReynolds'現象(乱流)が生じて,渦巻き流ができると,これが血管壁を振動させて雑音を発生する。よい条件で血圧が測れるときには,K音の五つの相がはっきりと区分され,しかも音そのものが大きく聴かれる。血圧を測るとき,しばしば音が小さくて非常に聴き取りにくいことがあるが,とくに未熟なひとではあせればあせるほど測りにくくなる。そうすると,患者は不安になり,そのためによけい血圧は測りにくくなる。患者が不安になるほど音が小さくなることは,以下に述べる機序が関与している。

 

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