ストレスは交感神経機能の亢進 レニン・アンジオテンシンの過剰,そして,腎の濾過面積を減少させる。他方,全末梢抵抗についてみると,これには細動脈で代表される抵抗血管の機能と構造が大きく関連してくる。機能の異常としては交感神経の緊張亢進,レニン・アンジオテンシンの過剰,血管内皮機能の障害と内皮由来血管拡張因子の異常が主として関与し,抵抗血管(細動脈)の構造異常としては,交感神経緊張の亢進,過剰なレニン・アンジオテンシン,肥満を介する高インスリン血症などが血管平滑筋の肥大を生じる。また,遺伝的な要因は抵抗血管の内皮機能に異常をきたし,細動脈の機能と形態の変化に影響する。
これらをまとめ,治療へのアプローチも含めた高血圧症の発症を模式的に示すと図45のようになる。基本的な循環調節のシステムを中心にして,遺伝的要因と環境要因とが影響するが,当然のことながら遺伝的要因は環境要因にも強い影響を及ぼす。環境要因には食塩の過剰摂取,肥満,飲酒過剰,運動不足,ストレスが挙げられる。遺伝要因に対する有効なアプローチは現在のところないが,将来人間のゲノムの解析が完全に行われるようになれば,高血圧のリスクの高い者がより適切に診断されるので,これらが高リスク者として環境要因の矯正の対象とされるほか,薬物療法の開始もより積極的に,かつ早期に開始されるようになると思われる。環境要因の矯正は生活習慣の変容(lifestyle modification:LSM)として1993年のJNC-V以来広く認められた治療法となっているが,どのような対象者にどのようなプログラムを,どのように適用するのが最適であるのかが,効果的な結果を得るために必要となる。そして,薬物療法はこれらのLSMが効果を示さない場合に開始されることになる。
図45 血圧上昇の機序