図44 高血圧症発症の機序(Kaplan,1998)
まず,血圧は心拍出量と全末梢抵抗の積で表され,この関係は身体全体,あるいは個々の臓器や組織内の自動調節能の範囲でその恒常性が一定に保たれるようになっている。しかし,何らかの機序によっていずれか一方,あるいは,双方が増大すれば血圧は上昇することになる(図44)。
心拍出量に注目してみよう。心拍出量は心拍数と一回拍出量の積であるが,これは収縮する直前にどのくらい心室内に血液が充満しているか(前負荷:preload)ということと,収縮期に左室がどのくらいの強さと速さ(収縮能:contractility)で血液を駆使するかによって規定される。pre-loadは体液量とそれを心臓へ運ぶ静脈系の緊張度によって支配され,この静脈系の緊張と左室の収縮能は交感神経の緊張亢進によって増大するし,体液量の増加は食塩の過剰摂取と腎によるNaの排泄が低下することによってもたらされる。さらに,Naの貯留には腎の濾過面積の減少が関連し,このことと,Na貯留にはネフロンの数がもともと少ないという体質的な要因が関わる。