ところで,血流に対する抵抗の状態は,生体ではよりダイナミックに変化し,脈管内腔の径と壁の厚さの動的な関係によって変わってくる。このW/L比(壁厚・内径比)は,壁の厚さを内腔で割った値で,これは大動脈から末梢の細動脈へい、に従って大きくなり,このことは,内腔が小さくなるにつれて,壁が相対的に厚くなることを示している(図5)。
細動脈でピークに達したW/L比は毛細管系から静脈系にかけて再び低下していき,それに従って断面積は減少し,血流速度が増していく。従って,同じ程度の脈管平滑筋の緊張による収縮でも平滑筋の多い細動脈領域でW/L比が著しく大きくなり,抵抗もそれだけ増大する。このことが細動脈を抵抗性血管と呼ぶ理由である。これに対してW/L比が小さい静脈系は容量性血管と呼ばれ,血液貯留の機能をもち,これらの機序の統合によって生体の循環系内の血液が巧みに調節されている。
2.循環系内の血流の配分とその制御の機序
以上の関係を模式的に示したのが図7である。水溜の水は蛇口から流れ出るが,水溜に近い高い所で蛇口を開いても,その間の圧の差が小さいので,水の出はあまりよくない。同じ程度に蛇口を開いてもこの圧の差が大きいほど流量は大きくなる。したがって,血流量を決定する一つの要因に,圧勾配の大きさがあげられるが,同じ圧の差であっても,蛇口があまり開いていない抵抗の高い状態では,最大に蛇口が開いている抵抗の低い状態に比べると水の出方が悪い。このように血流量を規定するものは,勾配の大きさと,抵抗の状態ということになるが,この模式図をもう少し生体のそれに近づけると(図8),水溜は静脈系に相当し,ここから心臓へ戻ってきた血液は,それぞれの臓器組織へ送られる。あるところは蛇口が全開しているし,あるところは蛇口が完全に閉じているというように,循環はそれぞれの臓器の需要に応じて血流量が調節されており,結局,血流量は,ものを食べたり,眠ったり,運動したり,あるいはいろいろな行動に応じて,調節されることになる。
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