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不完全な自己を認識する

 私どもの生活をよくするために何ができるか。スーパーマンにはならなくてもいいのです。今回は私がやるよりも,他の人がやってくれたほうがいいわと譲れる気持ち,それから常に完壁主義でなくていいのだと,それから未完の美というものもあるのだと思う余裕があれば,われわれの思考を変えることもできるのではないでしょうか。
 それから私たちの対応する対応の仕方も気をつけなければなりません。私にはとてもそんなことはできないわという自己否定の自分に対するマイナスの話をしない。それから大ぶろしきを広げて実際よりもものごとを誇張して言わない。「できないわ」「やりたくないわ」「不可能だわ」とは言わない。「うるさい患者さんよ」とか,「あの嫌なスタッフよ」というように人にレッテルを張ってステレオタイプ化しない。自分の生活をポジティブに生きること,それはだれが指示することもできない,自分で考えることです。
 私は仕事から帰ってくると一息入れるために赤ワインを飲みます。私のポジティブ・ライフスタイルは赤ワインの1杯です。それから人を恨んで,人のせいにすることもいけません。人間である以上不完全なものなのだと自分自身に対しても認めるし,他人の不完全さも認める。自分に課すその日のペースの運びをあまりつめてしまわないことです。アポイントを入れるときに,1時間ごとに約束を入れるのはいけません。オーバーすることがあるからで,それは自分に対するオーバーローンにもなるからです。
 一つの行動から次の行動の間に間(ま)をとるということです。己れを知ることで,時には自分にはできない“ノー"という勇気も出てきますし,同僚にやってもらう勇気も必要となります。私は頼まれるとついやってしまう,なかなか“ノー"と言えないので,秘書に“ノー"というのを頼んで言ってもらっています。
 それから,もろさをもつことです。完壁さというのは怖いことだと知ってください。患者は自分の所有物ではないし,家族も自分の所有物ではないのです。それから,「ありがとうございました」と言われたときに,こちらはテレてしまって,それを受け入れることができないことがあります。患者も家族も本当の意味でお礼を言いたいのであったら,そのお礼を受け入れるということも必要です。プロフェッショナルとしての知識は常に更新していくことは当然です。お互いを尊重しあってお互いを見つめ合う。お互いにありがとう,ごめんなさいと言い合う。

 

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