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?.英国の緩和ケア事情

入院ホスピスから在宅ケアヘ

 英国のホスピスは,いわゆる国のやっている医療サービス(National Health Service=NHS)とは別途のものとして生まれました。なぜならば,国のやっている医療サービスでは,在宅ケアや痛みの緩和ということはとても達成できないと思われたからです。英国ではハカニーというところにあるセント・ジョーセフ・ホスピスがまず最初に独立型のホスピスとして設立されました。入院施設を持ったホスピスとして生まれたのです。
 ところが入院施設を持ったホスピスは1990年代に入って伸びが鈍化してきました。1997年時点で入院施設を持ったホスピスは223カ所,ベッド数は3,253床ですが,少ないところで2床,多いところで65床,平均すると1施設15床となります。1980年代の半ばから在宅ケアのサポートをするチームの数がふえてきて,現在ではチームの数が400以上あります。このチームの3分の1は入院施設を持つホスピスに所属していますが,3分の2は独立した在宅ケアのチーム編成になっています。最近は,病院の中でもホスピス(緩和ケア病棟)がだんだん育ちはじめてきました。
 デイケアもふえてきました。現在は200を超えるほどになりましたが,そのうち3分の2は入院施設を持つホスピスと関連づけられています。最近,がんの患者さんが病院以外の場所で亡くなるというケースがふえており,1994年の統計では,在宅で亡くなったがん患者は26%,病院が47%,そして14%がいわゆるホスピスで亡くなっています。ホスピスがこれだけ大きな影響力を持つようになってきたということがおわかりいただけると思います。
 こういう状況の変化に伴って,緩和ケアやホスピスのビジョンも変わってきています。これまでは終末期に患者とかかわるというのがホスピスの考え方でしたが,いまはずっと早い時期からかかわっていくようになりました。
 在宅ケアが非常にふえていく反面,入院施設を持つホスピスの患者さんのケアの件数は減っていく,つまりますます多くの患者さんがホスピスに入院はするけれども,退院して在宅でその後を過ごすというケースか多くなってきています。そのために,英国では国のやっている医療サービス(NHS)との協力・提携がふえてきており,この10年間,ホスピスという緩和ケアが国の医療制度の中で認知されるようになり,専門的な医療であるという認識も高まってきて,NHSの予算もつくようになりました。

 

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