
講演
小網代の森の保全とナショナル・トラスト支援
岸 中二
【司会】次は、岸中二先生の「小網代の森の保全とナショナル・トラスト支援」です。岸先生は、
慶応義塾大学経済学部生物学教室教授、いるか丘陵ネットワーク世話人です。主な著書は、『い
のちあつまれ小網代』、『リバーネーム』等々。映画も作っておられます。先生、お願いします。
【岸】こんにちは。ただいま紹介していただきました岸といいます。私の話の舞台は、こあじ
ろ、と読みます。「小網代の森の保全とナショナル・トラスト支援」ということで、自然保護の活
動の事例報告のようなものです。小網代は、あるいはご存じの方が中にいらっ
しゃるかもしれません。神奈川県に三浦半島という、そんなに大きくない半島があります。その
半島の先端に、東京大学の臨海実験場があることで有名な油壷という場所がありまして、その
北側に、100ヘクタールぐらいの規模の集水域、谷一つが緑で残っている。その下に、リアス式の
埋没した細長い湾がつながって相模湾に出ている、そういう場所があるんです。その谷を小網代
の谷と呼んでいます。 この谷は、今から15年ほど前に、リゾート開発、ゴルフ場開発の立地とい
うことで、全域開発の対象になりました。これに対して、1983年から、別の開発があっていいだろう、
あるいは、できることだったら保全したっていいんじゃないかという市民活動が始まって、その翌年から
ずっと付き合ってきました。
この谷は、市街化調整区域ではなくて、全域が都市計画上は市街化すべき区域というふうに
位置づけられていて、しかもリゾート開発も、地元では、議会や商工会議所や、関連の機関が揃って
推進ということを決定した場所でありましたけれども、いろんな応援、いろんないい風も吹いて、
1995年に神奈川県が、中心部分の谷一つを全域保全したいというふうに言いだしてくださいまして、
現在72ヘクタールほどの中央の谷部分を保全する方向で、調整作業が進んでいるところです。
きょうは、その小網代保全の歴史をざっとお話させていただいて、現在小網代の保全活動が
直面している、ナショナル・トラスト活動と関連した問題というか、プラスのほうでいえばビ
ジョンというか、そんなお話ができればと思っています。
お話のほうは、まずはスライドを20枚ほど持ってきましたので、小網代ってどんな場所で、
どんな自然かというのを見ていただきます。そのあと、簡単な活動の歴史のようなものをお話
させていただいて、現在、神奈川県、三浦市と、それから行政の積み上げている基金によって運
営されている神奈川県のナショナル・トラスト組織、「からかながわトラストみどり財団」とい
うのがあるんですが、そのナショナル・トラスト組織と、私が参加している市民活動、いろんな形
のネットワークの3者の連携で、今現状はどうで、これからどんなことを考えているか、そんな
話をさせていただきたいと思います。まずは、スライドをお願いいたします。
講師略歴と主要著書
横浜市立大学文理学部生物学科卒業、東京都立大学大学院動物生態学専攻博士課程修7。
慶応義塾大学経済学部生物学教室教授。
ハゼ・カニの繁殖生態、進化生物学への科学社
会的批評活動。進化生物学専門理学博士。
「遺伝学の歩みと現代生物学」「進化論を愉しむ本」「いのちあつまれ小網代」
「リバーネーム」「イルカネット」ほか多数
92 環境とナショナル・トラスト講座1998
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