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1998年10月17日
環境とナショナル・トラスト講座1998

ポスト京都会議の地球温暖化対策
佐和隆光(京都大学経済研究所・大学院エネルギー科学研究科)

[1] 京都議定書で決まったこと:?2008年から2012年を目標年次とする.?先進国全体で1990年比少なくども5%削減する(実際は5.2%).?国別の差異化を施す(日本6%,アメリカ7%,ヨーロッパ諸国8%の削減.ロシアは0%,オーストラリアはプラス8%).?1990年以降の植林,再植林などによる吸収源(シンク)を加算する.?6つのGHG(CO2,メタン,亜酸化窒素,HFC,PFC,SF6)をCO2換算して加えあわせたものを削減対象とする.?共同達成を認める.?排出権取引制度を導入する.?先進国間の共同実施を認める.?途上国との協力をクリーン開発メカニズム(CDM)として制度化する.

[2] 次のような日本提案の中身を「解剖」する.5%×min{1,A/B,C/D}または5%−E/F.Aは各国のCO2/GDP,Bは先進国全休のCO2/GDP,Cは各国のCO2/人口,Dは先進国全体のCO2/人口,Eは各国の90年から95年にかけての人口増加率,Fは先進国全休の90年から95年にかけての人口増加率,次の4つの「事実」を結びつけたのが日本提案:?CO2の実現可能な削減率は0%,?メタン,亜酸化窒素で0.5%の削減は可能,?5%という数値の一人歩き?アメリカの削減率は日本よりも高くなければならないとの主張.結論が先にあって,「結論を正当化する」のが官僚の仕事なのか?

[3] 温暖化問題は,科学が政治や経済を動かしたという過去二番目の事例:一番目はモントリオール議定書(フロンによるオゾン層破壊).2100年の大気中のCO2濃度をいかほどにコントロールする必要があるのかは,科学者の決めるべき問題.その上で,その目標を達成するためには,2010年までにCO2の排出量を何パーセント削減すべきなのかは,科学者,経済学者,技術者などが意見を出し合って決めることである.日本では,官僚たちが勝手に決めているのではないだろうか?

 

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