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第2章 調査結果の概要

2−1 盲導犬訓練施設と盲導犬訓練士に関する現状と課題

(1)我が国における盲導犬の供給体制の現状
現在、我が国では800頭あまりの盲導犬が視覚障害者のもとで活動している。盲導犬は、全国に8ヶ所ある盲導犬訓練施設で作出されているが、適格犬として合格する割合は約50%であり、過去3年間の盲導犬作出数を平均すると年間104頭であった。
平成9年度に8ヶ所の盲導犬訓練施設で受理した盲導犬使用申込みは145件、そのうち面接(適性判定)済みは116件、貸与予定は100件である。 盲導犬歩行指導、および訓練にたずさわっている職員は59名であるが、その内訳をみると、「盲導犬歩行指導員」21名、「盲導犬訓練士」5名、「研修生」33名となっている。

(2) 盲導犬の繁殖
現在、8ヶ所の盲導犬訓練施設で使用されている繁殖犬は83頭である。それらの多くは国内およびイギリスやオーストラリアなど外国の盲導犬訓練施設やブリーダーから導入されているが、自家繁殖を行なっている施設もある。繁殖犬の出産、飼育・管理方法などについては施設によって異なり、独自のシステムや方針のもとで行われてきている。
盲導犬の安定的・効率的な繁殖は盲導犬訓練施設にとって最も重要な課題のひとつである。しかし、現在は、優れた種雄・台雌の確保が難しかったり、外国から導入した繁殖犬の質が安定していない、盲導犬の合格率(適格犬数率)のばらつきが大きいなど、繁殖に多くの問題を抱えている。雄・雌の組み合わせを配慮した交配を行なったり、人工授精の技法を活用して、質の良い盲導犬をコンスタントに送り出すためのシステムづくりへの取り組みがなされているが、優秀な繁殖犬の確保には今後なお一層の努力を要する状態が続いている。

(3) 盲導犬訓練士の労働環境
盲導犬の訓練については、高い専門知識や経験を有する盲導犬歩行指導員や訓練士がその業務に従事しているが、訓練士になる前の段階にある研修生の離職率が高いことから、訓練士の絶対数が不足する状況が続いている。
平成5年から7年までに採用された研修生については、2年次の在職率は76%だが、3年次には39%にまで低くなっている。また過去5年間の研修生の平均勤続年月は1年5ヶ月であった。研修生の初任給や休日数を見ると、民間企業や公務員と比較して格差があるケースもあり、こうした労働条件の違いは離職率が高くなる要因のひとつになっているものと思われる。また、訓練士の養 成は各施設ごとに行われているが、訓練士養成のための専門指導員などを配置している施設は少なく、施設長やベテランの指導員がそれらの任務にあたっているのが現状である。
各施設および盲導犬訓練士から指摘された改善すべき点や要望として、労働条件の改善や職員の増加、業務内容の専門化、養成カリキュラムのシステム化などが挙げられている。

(4) 盲導犬訓練施設の財源
盲導犬訓練施設の主たる財源をみると、個人寄付や法人寄付、会費収入などの寄付金収入が占める割合は収入額全体の約70%に達している。その他、受託収入は約12%、事業収入は約9%の割合になっている。この収入の内訳比率は施設によって多少異なるものの、基本的には収入の大半を寄付金に依存していることから、財源が安定的でなく年度予算がたてにくい、中長期的展望に基づく事業が計画しにくい、などの問題が生じやすい財務体質となっている。また、資金調達のために バザーやチャリティショーを行なっている施設もあるが、そのために多くの人件費や経費が伴っているのも実情である。その上、盲導犬の普及および盲導犬事業の啓発を促進するための役割がこれまで以上に期待される場合には、さらなる人的・資金的余裕が必要になるものと考えられる。
盲導犬の育成頭数の拡大や訓練職員の増員、専門職員の配置など、盲導犬育成事業強化へ向けた事業計画を実現するためにも財源の確保・安定化はとりわけ重要な課題となるが、そのためにも公的な助成金の増額などを含めた具体的な財政支援策の検討が不可欠である。




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