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グループホームの住まいに関する調査研究報告書


    グループホームの住まいに関する調査研究 8 大分大学 鈴木義弘


      コロニー雲仙のグループホーム

?@コロニー雲仙の活動概要
設立20年を迎えた社会福祉法人「南高愛隣会」の「コロニー雲仙」(総称)は、発足時の授産施設(入所型)「雲仙愛隣牧場」(1978年)を皮切りに、順次知的障害者への福祉サービスを拡大している。
<図−1>
1981年設置の更生施設(入所型)「雲仙更生寮」といった施設福祉と併せて、福祉ホーム「有明荘」(1981年)、通勤寮「双葉寮」(1985年)の居住施設へと展開し、さらにグループホームや法人単独による自立訓練棟および生活実習棟などの地域居住の実現へとつなげられており、1992年から長崎県の委託による「生活支援センター」として、一般住居の登録者へのサポートも行っている。1996年の「諫早通勤寮」の開設により、県央(5市9町)と県南(2市9町)の地域別での生活支援に至っている。GHは、認可23棟92名・無認可14棟37名、自立訓練及び生活実習棟(住み込み職員による主に重度者対応の住居)15棟73名の計52棟202名にのぼっている。これに、生活支援センター登録者である115名(レスパイトサービス対象者でもある)を含めた利用者が、地域居住のサポートを受けている。

さらに、福祉工場「コロニー・エンタープライズ」(1988年)、労働行政制度であり共同出資の第3セクター方式で建設された職業訓練施設「長崎能力開発センター」(1987年)および同じく3セクによる重度障害者多数雇用事業所「プリマルーケ」(1996年)などの就労の場の保障と共に、これら施設を含めた就労支援サービスも実施されている。現在、サービスが行われているのは、8市19町・104事業所・320名(内訳は、一般雇用:234名/職適実習:6名/パート:18名/援護就労:62名)である。
地域居住を見る上で、特筆しておくべき「コロニー雲仙」の取り組みに、「コロニー・エンタープライズ」の給食部門で行われている給食サービスが挙げられる。GH入居者をはじめ生活支援利用者にも食事が宅配されることにより、調理能力なしでもこうした居住形態が可能となり、世話人にとっても調理・健康(栄養)管理の多大な業務負担を、他の援助に充当可能となっている。このほか、医療支援サービスや活動支援サービスなど多岐にわたったきめ細かな活動については紙面の関係上割愛する。
綿密で多様な生活援助活動を行う体制を、通勤寮「双葉寮」を活動拠点とする「県南地域サービスセンター」を例に補足する。サービス対象地域をGHおよびその他を含めた支援の人数・内容などから4つのエリア(4班)に区分し、各班担当の世話人と、生活や就労支援(ジョブコーチなども含む)、活動支援など内容毎の担当施設職員との連携で体制が組織されている。さらに、法人本部の職員も一部これに加わり、マンパワーが補われている。こうした流動的な編成の企画立案・体制保持には、多大な創意工夫と熱意を要すると考えられると同時に、前述の給食サービス導入とも併せて、サービススタッフ(あるいは利用者)の集積効果(スケールメリット)が有効に発揮されていると捉えられる。
本報告では、これらのうち認可グループホーム(23棟92名)に関する居住形態と入退居者の特徴と、「県南地域サービスセンター」における生活支援登録者を対象として取り扱う。

?Aグループホーム(認可)の形態と入居者の特徴

1)グループホームの形態
認可GHは、バックアップ施設「双葉寮」の所在する瑞穂町を中心に5町に分布している。<図−2>
住居は法人所有14棟、賃貸は9棟で、土地は3棟を除き賃貸である。法人所有のものはすべてGHとして新築されたものである。配置は基本的に町内外への分散化を志向しているが、営農中心の地域性から建設時の借り上げ・取得の際の用地面積が広く、2棟単位あるいはそれ以上の規模の事例が多く見られる。
入居者の性別は、男性60名に対し女性は約半数の32名で、GHは男性専用13棟・女性専用7棟。混合居住3棟となっている。混合居住のうち1棟は、入居者1人2室トイレ付施錠可の住戸ユニット5室に共用室(居間・台所・浴室)が設けられた独立性の高い半アパート型のタイプである。(現地では、ワンルームタイプと呼称している。)このタイプは、ほかに2棟建設されており、将来的な混合居住や夫婦入居を想定しているが、現在はそれぞれ男女専用利用である。(※プラン・家具配置は?Bで詳述している。)
入居費は、個人の専用面積の広いこのワンルームタイプが最も高額(15000円)に設定され、最低7000円までの平均10569円となっている。また、世話人(平均年齢:41.7才)の居住形態は、近居が16棟で多くを占め、通勤棟戸・同居棟戸とつづいている。
<表−3>

2)入居者の特徴
コロニー雲仙のGHにおいて最も特徴的な点は、障害判定中等度B1の利用者が極めて多い点である*3。軽度のB2入居者は約1/4(25.3%)に止まり、B1が半数を上回る(52.7%)。さらに重度A2においても2割(19.8%)に達する。勤務先は、一般事業所と福祉工場に大きく2分されるが、軽度B2で一般事業所、中等度B1で福祉工場への依存度が高い傾向はあるものの、両者に大きな格差は認められない。<図表−2>
GH入居前の居住先と障害判定との間に一定の相関が指摘できる。最も多い通勤寮からの入居者(34.1%)は、その3/4が中等度B1であるのに対し、これにつづく自立訓練棟(23.1%)からは、僅かではあるが重度者A2が最も高い比率(38.1%)で、さらに福祉ホーム出身者(16.5%)は、軽度者B2が過半数(53.3%)となっている。つまり前居住形態の特性を反映した生活指導の結果がGH居住に結びついていると解釈できる。
先述の就労支援や給食サービスの効果などと総合して、重度・中等度者においてもGH居住と高い職場定着が可能となっているといえる。
年齢別では30代前半が最も多く、後半も含めた30代で約半数(50.6%)、20代が1/3(33.0%)の構成である。
*3調査対象者のうち、男性1名の障害判定が不明(Bランク)のため本考察の集計からは除外している。

3)退居者の特徴
これまでのGH退居者は28名で、女性の少なさが顕著である。退居とはいえ、他のGHへの住み替えが12名みられる。理由は、職場接近のためと居住環境向上のために2分される。ヒアリングでは、店舗(買物)および交通機関(バス・鉄道)利用の利便性が、大きな評価基準のようである。<表−4>
これ以外の16名のうちでは、自宅での家族との居住(あるいは引き取り)が8名、結婚による公営住宅居住が3名である。
平均の年齢及び居住期間は、それぞれ33.6才・25.2ヶ月であるが、居住環境向上のための退居と結婚によるものの居住期間が比較的長いのに対し、自宅居住希望は年齢が若く居住も短期間であるという傾向を示している。このデータのみでは推察の域を出ないが、前者の積極的な転居志向は長期のGH居住に伴う次の段階への住生活実現への発展した要求であり、相対的に若年で短期居住の後者は家族依存傾向の反映が要因の一部を担っていると見ることもできる。

4)生活支援センター登録者の状況
「双葉寮」の担当する県南地域サービスセンターへの生活支援登録者:2市9町59名は、GH同様男性の割合が高い(43名・72.9%)。この差異は、「仲間との共同によるアパート生活」が女性には見られず、一方男性の21名がこうした生活形態をとっていることに大きく起因している。男女の合計では、家族と居住している在宅者が27名で半数近く(45.8%)を占めている。結婚生活者は、3組6名である。勤務先は約7割(69.5%)が一般事業所で、法人運営の福祉工場と法人の関与した3セク事業所が、これを補完している形となっている。
障害判定別で見ると、軽度者B2がやや多いが中等度者B1とほぼ2分されており、生活形態や勤務先との関連性も認められない。GHに比べ軽度化傾向を示す点については予想されたものの、B1者の自立性の高さはやはり特筆される。<表−5>

?B事例調査によるグループホームの平面構成と住まい方

1)事例調査対象者の特徴
事例調査対象GH9戸の入居者36名に関して、別途採取した項目*4の考察結果について簡単に触れる。
将来希望する居住形態は、現状のままGH居住が大半の32名と極めて高い評価を示しており、結婚による一般住居転居が3名、一般住居での自立生活希望は1名のみ、自宅への転居希望は見られなかった。
月収入は、障害基礎年金(1級17名・2級19名)に給与で、全体平均158,768円である。年金は、将来に備え貯蓄し、給与(平均:85,581円)で入居費・光熱費・食費をまかなうよう指導されている。残額が、余暇における自由裁量のものとなる。<表−6>
帰省は、年2回が16名で最も多く、長崎県内出身者(郡内・近接市を除く)の年12回1名が最多である。郡内及び近接市(島原)出身者10名のうち年6回が5名みられる以外に、実家との距離との関係は見いだせない。週末帰宅あるいは月1度を越える帰省はみられない。

世話人による援助内容(重複回答)は、先述の給食サービスの効果から、最も力が注がれているのが人的交流の支援で過半数の20名を占める。次に金銭管理12名・持物管理10名・時間管理9名である。
*4入居理由・将来の希望居住形態・帰省頻度・収入・主たる援助内容などについて、バックアップ施設担当職員に記入依頼した


2)対象住戸の平面構成
プランと家具配置を採取したのは、下記の4タイプ・9棟で、いずれもGHとして設計・新築されたものある。
<図−3><図−4>

・タイプA:1人2室独立型(ワンルームタイプ)・・・・・・3棟
和洋続き間2室とトイレ・洗面からなる独立性の高い住戸ユニットを両ウィングに2層に配置し、中央部1階に共用部(居間・DK・浴室)を設けている。このうち2棟(<あけぼのハイツ><くれないハイツ>)は、2階中央部にも2室続き間型住戸ユニットを配置したもので、世話人の同居あるいは入居者の増員に対応させている。
もう1棟(<ブルーハイツ>)は、2階中央部の住戸には1階と同様DK・浴室が設置されており、これは夫婦入居による独立した住生活が想定されたものである。
(この場合、入居費は月20000円に設定されている。)

・タイプB:個室重視型・・・・・・4棟
一般都市住宅に近いコンパクトな平面構成で、6畳和室が1階2室・2階3室および共用物置(2階)が設けられている。
2つの敷地にそれぞれ2棟ずつ同一プランで建設され、同じ敷地の2棟(<桑田住宅北・南>と<横田住宅北・南>)は、北棟が男性専用・南棟が女性専用に分けられている。
家具配置の比較を試みるため計4棟すべてを採取した。

・タイプC:共用部重視型・・・・・・1棟
玄関・動線部分を吹き抜けを設けながら中央部に配置し、居室相互の関係性を密にする配慮や、台所(DKも可)も広くして共用部を重視したタイプ。その分面積の抑えられた4畳半の個室5室と管理人室6畳。1室はすべて2面採光を確保している。
(<上伊古住宅西>)

・タイプD:平屋土間型・・・・・・1棟
高齢入居者あるいは重度の障害者を想定した平屋で、最も大きな特徴は、玄関ホールとこれに接続される設備廻り(台所・浴室・トイレ)へのアクセシビリテイを配慮して「土間化」していることである。さらにこれを利用して、床上畳部から台所(土間)まで延長された食卓により、床座とイス座(車いす)が一体で食事をとれること、個室1室に踏み込みを設けて車いすアクセスを可能としていること、その他の個室も、2室ずつの続き間として、融通性をもたせているなどが挙げられる。基本平面構成はこのため中廊下型による動線の短縮化が図られ、廊下は天窓により採光されている。

3)家具配置の特徴*5
基本的に管理を排除し、自立した生活を目的としているGHでの数少ない制約は、テレビとコタツの個室への配置を規制している点である。
原則として、居間で共同所有としている。見たいプログラムの重複を配慮して最大もう1台まで許容、例外として年輩者と独立性の高い1人2室型(ワンルームタイプ)は自由としている。従って個室に持ち込み可能なAV機器のラジオカセットは、ほとんどの入居者が所有している。
家具配置の特徴として指摘されるひとつに、女性の所有物が男性のそれに比べかなり多いという点が挙げられる。<桑田住宅>の北棟(男性棟)と南棟(女性棟)でその傾向が顕著である。タンスの数に加え鏡台などの整容家具、その他室内装飾の飾り棚や小物などが持ち込まれている。個室が4畳半で構成される男性棟の<上伊古住宅西>では、家具量がさらに少なく、4名中1名は6畳の管理人室を利用している*6。

2室型の3棟についても、男女差がみられる。1室型に比べ家具量が全般的に多いが、女性の場合玄関側の洋室にタンスや鏡台を配置し、衣装部屋として利用している例が散見される(<あけぼのハイツ1F東・西>)のに対し、男性室はここが前室化ないし利用していない例(<ブルーハイツ2F西・中央><くれないハイツ1F西>)もある。コタツとテレビによる「くつろぎの場」と「就寝の場」(ベット1例を除き敷布団)は、いずれも南側の6畳和室に取られている。コタツを窓面に移動させ、布団敷のスペースを常時確保しているものも3例みられる(<ブルーハイツ1F東・2F中央><あけぼのハイツ1F東>)。前述の衣装領域以外に、2室を用途分化して使われていると認められる例としては、コタツを玄関側洋室に設けて「就寝の場」を和室に広く確保しているもの(<くれな
いハイツ2F中央>:この事例は、洋室が南面していることも要因の一つと考えられる)の1例と、洋室に机・ラジオカセットをしつらえて書斎化させている1例(<くれないハイツ2F西>:ベッド所有の入居者である。和室にはこれをコタツと共に設けているため、高密度な家具配置となっている)であった。
因みに、夫婦居住を想定した<ブルーハイツ>2階中央住戸は、現在単身者が入居しており、男女混合居住の対応として、1階浴室を女性が2階を男性が使用している。
食事の形式は、1人2室型(ワンルームタイプ)3棟が1階居間(和室)に食卓を配置してイス式をとっているが、他のホームは居間食卓(コタツ)での床座で、すべて居間・食事室兼用の使われ方となっている。
*5前項までのデータは、バックアップ施設における書類に基づいている。調査時点での入居者はその後変化しているため、家具配置図に示した情報とデータ集計結果は対応していない部分がある。
*6<上伊古住宅東・西>は、「双葉寮」に隣接して立地しており、通勤寮生活終了者や自立訓練棟などから転居し、他のGH生活にはやや不安の残る入居者対応に位置づけられている。従って、過渡的な住まいとして家具は増やさないという側面もある。
しかし、2棟とも男性棟であり、女性の場合を想定すると、個室4畳半はやや狭いといえる。



























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