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グループホームの住まいに関する調査研究報告書


    グループホームの住まいに関する調査研究レポート 4 愛知工業大学 林章 平成10年1月31日 グループホーム・生活ホーム調査報告書 愛知工業大学 林章


      スイートビレッジ

0.住所等
〒 愛知県豊橋市岩崎町長尾119
PHONE 0532-63-4311

1.開設等
○開設および認可は平成元年12月1日

○利用している制度は、国のグループホーム制度です。

2.入居者
○届け出定員 5名

○現在員数 4名(1名欠員。4名はいずれも男)

○居住者の障害のレベル:中度3名(高齢化による重度化傾向あり)+重度1名

○全員が一般就労。徒歩あるいは自転車で通勤しています。

○月額利用料 84,000〜92,500円(居室の条件で家賃の差を付けています)。また居室での光熱費や電話使用料は個人負担としています。

3.バックアップ施設:通勤寮「岩崎通勤寮」(0532-61-2062)

4.世話人およびバックアップ体制
a)世話人は1名。初代の世話人は同居していました。現在の世話人は2代目。勤務当初は通い勤務でしたが、平成9年春に女性の居住者が出た後、彼女が担当していた朝食の準備を男性の居住者ではできないこと、また彼女が抜けたことで居住者同士の諍いが頻繁に起こるようになって、現在は同居に近い勤務形態になっています。やっと落ち着きを取り戻してきたこと(世話人の話)や近いうちに女性の入居を考えているというバックアップ施設長の話によれば、また通い勤務に戻ることが予測されています。

b)バックアップ体制
バックアップ施設がすぐ近く(200mほどの距離)にあり、世話人はすぐ相談やヘルプコールができるので、不安は少ないようです。

5.土地・建物
○所有 :土地、建物ともに借りています。家主の方は地域にすむ一般の人です。ただし、社会福祉法人岩崎学園が土地所有者に働きかけて建てたという経緯がふつうのグループホームと異なっています。返済計画を含む企画から、設計まで法人側が行いました。その設計段階では、入居が予定されていた人たちもその打ち合わせに主体的に参加しています。
○建物形式:軽量鉄骨造(積水ハウス)。2階建ての新築建物。

○建物面積:234.88?u(1階:142.59?u、2階:92.29?u)

○建設費用は家主負担ですが、企画や設計までのイニシアティブをバックアップ施設がとっていたという経緯もあり、保証金として5,000,000円を預けています。

6.日常の生活
a)面積的に恵まれ、また設計段階から各居住者が参加したので、住まいに関する不満はなく、各人は個人生活を満喫しているといえるでしょう。

b)シェアードリビングの発想による工夫が建物の随所に見られます。
?@恵まれた居室:2mモジュールでの6畳間はかなり広く、収納も各人の希望による工夫、違いが見られます。

?A玄関下駄箱などの収納スペースを5人分しっかり設けてあること:この下駄箱は特注で製作させたということです。(写真参照)

?B各居室への電話の設置:各室に電話の子機が設置されています。通話料は、モデムを使って自動カウント。それによって使用料のトラブルを懸念することなく、各人が自由に電話を使うことができます。ただし電話を使った悪質セールスを避けるために、受信はリビングあるいは世話人室でのみ可能な形態にしています。
(写真参照)

?C各個室に電力の子メーターがついており、その分は各人負担としています。これにより、電力の無駄遣いといった問題は、躾(指導)の問題から支出(生活)の問題に変わっていきます。

c)地域生活:農地の間に、住宅や工場が点在する地帯に立地するグループホームです。近くに商店街はなく、点在する店舗を利用するという形態になっています。
居住者のうち2名の移動手段は自転車、残りの2名は徒歩です。またすぐ近くにバス停があり、豊橋駅まで出ることができます。2〜3kmまでの範囲は、徒歩の人もバスを使いません。

余暇時間は、各人がそれぞれに過ごしています。
休日の外食は、各人いきつけの店があるようです(うどんやラーメンといった軽食が多い)。衣類などの買い物は、少し離れた大型スーパーマーケットを利用しています。
散髪も同じ店を使うわけではありませんが、2名は入所していた施設(岩崎学園、岩崎通勤寮)にボランティアで来ていた理髪師の店(2〜3km離れたところにある)を現在も利用しています。総じて都市生活者の徒歩圏をかなり超える範囲で行動しており、グループホームの立地から想像されるよりは地域生活は充実しています。
映画などの時は、バスで豊橋駅周辺まで出ていきます。
全員での外出は、花見、花火大会など折々におこなわれる程度です。

7.スイートビレッジの特徴について
a)終の棲家としてのグループホーム
グループホームを地域生活の一つのステップとし、アパート、マンションなどでの自立生活に進む人がいる一方で、グループホームを終の棲家とする人たちがいます。このスイートビレッジは、そのような人たちに参考になる実例です。

?@障害者本人の建設プロセスへの参加:設計検討会議に参加するだけでなく、住宅展示場で係員に説明を受けながら納得できるものを捜すなど、プレハブ住宅の利点を活用して、自分たちの住まいを自身で決めながら、同時に学んでいったと思われます。彼らのように入所施設での生活が長かったため、ふつうの住宅生活に関する知識が十分ではないというケースでは、学びながら考えていくというプロセスが重要なポイントになります。
設計検討会議に参加していた専門家の不安をよそに、壁紙なども趣味のよいものを選んでいます。バックアップ施設では、住宅展示場での係員との接触をはじめとしてあらゆる場面で、本人の前に出ず、困ったときのみ支援するという基本姿勢を崩しませんでした。つまりグループホームに移った時点で社会生活が始まるのではなく、グループホームに移ることが決まった時点で、グループホームをベースにした社会生活が始まるという視点が大切なのです。
この視点は常に意識され、上棟式の餅撒き(立地する農村地区での一般的な慣習)や引っ越し時の近所への挨拶まわりなどでも、入居者が前面に立ちました。
一連のプロセスに主体的に参加することで、入居者がスイートビレッジを自分の住処として認識する度合いが強まったことは容易に想像できます。地域の一員として受け入れてほしいという願いを、彼らを支援する者はみな抱いていますが、障害者自身がその思いを育てることは簡単ではありません。言葉での理解を求めることはおそらく難しいでしょう。わたしたちと同様に、社会に開いた場において主体的に経験するなかで、徐々に身につけていくのではないでしょうか。そのとき、グループホームを仮の住まいと感じるか、自分の住処と感じるかは、地域の一員になりたいという思いを育てる上で、大きく影響することでしょう。

?Aシェアードリビングの視点:既に述べたことですが、共同生活において個を大切にするという考え方はよく言われることですが、実態としては、個室を設ければ十分といった程度の配慮で済ませているケースが少なくありません。
電話に関していえば、通話料の処理が難しいので各個室に受話器を設置することを最初から断念していることが多いのではないでしょうか。知的障害者の支援の専門家であり、一般の地域生活の経験者であっても、共同生活の面では素人であるという認識が支援者に欠けていると、『自分が知らなければ、〜はない。したがってできない』といった尊大な気持ちに知らず知らずのうちに陥りがちです。
ちなみにスイートビレッジで導入したシステムは、岩崎通信機のアイピコーDです。

?B画一主義との決別:シェアードリビングの視点を大切にすることは、各人の差を共同生活を乱さない範囲で認めるという姿勢を含んでいると思います。各個室は、室内空間は同じ面積ですが、収納スペースの多少、あるいはベランダの有無などの差がつけられています。これは家賃に反映されています。居住者の収入は15〜25万円/月と幅が大きく、家賃の差に結びついています。極端な差をつけることは問題でしょうが、終の棲家を得る際に、入居者のうちの低い収入レベルにあわせて規模やグレードを決めてしまうような横並び第一主義は見直してよいのではないでしょうか。

b)スイートビレッジの立地
バックアップ施設「岩崎通勤策」は、スイートビレッジ以降グループホームを開設していません。その理由は希望者がいなかったことにあります。通勤寮を出て地域生活を希望する人は、みなグループホームを望まず、市街地に立地するマンションでの自立生活を希望します。したがってバックアップ施設の支援の大半は、むしろ地域で自立生活する人たちに向けられるようになりました。
その背景には、国のグループホーム制度がスタートして以来、地域福祉の考え方が急速に浸透し、生活の場として、グループホーム以外のメニューを手にすることができるようになったことが挙げられるでしょう。おそらくバックアップ施設もそのような彼らの思いを積極的に支援していったことと思います。
しかしその上方で、バックアップ施設にあまりにも近いという立地が、岩崎通勤寮を卒業していく人たちの目にどのように映ったかという問題は多いに気になるところです。地域生活を望む障害者の心のなかに、施設における指導や管理の目から逃れたいという気持ちを読みとることは決して突飛な想像ではないでしょう。完全に一人立ちするには不安がある。しかし望む以上の関わりが生じそうな場を選ぶことには抵抗を覚えるのではないでしょうか。

スイートビレッジの住人は、しかしこのようなストレスを感じていないようにみえます。施設時代の生活の記憶はあまり否定的な色合いを帯びていません。そのあたりのニュアンスは施設以来の理髪師のところに通い続け、「長いつきあいだね。どっちかが死ぬまで来てくれよ」と言われて素直に喜ぶ心情によく現れていると思います。良い悪いの問題ではありません。そのような気持ちの持ち主でないと、この立地はストレスを生む原因となるだろうということです。
バックアップ施設は、今後福祉就労レベルの障害者を対象としたグループホームを開設することでしょうが、おそらく施設の周辺という立地は選択しないのではないでしょうか。






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