日本財団 図書館


知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

根来 正博氏(福祉施設「このみ」)

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事前把握と登録制度
このみでは利用に際して会員制度をとっています。当初は登録制をとらずに市内在住であれば全く制限を設けずに受け入れてきました。しかしお子さんの様子が分からずに困ってしまうということがあったものですから登録用紙を作り、それを元に基本の把握をしようということになりました。登録用紙には、家庭状況、障害状況、日常の生活の様子を記入して貰います。まず本人の障害の程度と家族構成を書いてもらいます。地図を書き込む欄もあります。ここには家庭からこのみまでの地図ではなく家庭から通学先、通勤先を書いて頂いて何かあった場合になるべく通学だけの関わりよりもその情報を基に日頃家族が関わって来たやり方で送迎を行う、と言うことで書いてもらいます。次に日常生活動作と言うことで基本的な食事とか着脱とか入浴の様子を記入してもらいます。凄く細かくかいてくれる方もいれば、全然問題ありませんとか特に必要ありませんとかで終わってしまう人もいます。これに関しては各家庭、ここバラバラです。さらに休日用と平日用と言うことで24時間の円グラフを二つかいてもらいます。そこに就寝の時間、ご飯の時間、入浴の時間の生活リズムが分かるように記入してもらいます。そういう形で用紙によって家庭状況を把握すると言うことを年に一回やっています。この方法は家庭によってはすごく抵抗があったのですが、書くことで改めて見えてくるお子さんの様子があると言うことを説明して書いてもらうようにしています。
まず用紙で事前の把握をして、後は色々な方法でお子さんの生活に関わるようにしています。例えば学校で授業参観があるときに職員やパートの人が見にいったり、通園施設は割合オープンですので日頃の食事の様子を、特に食事介助の必要な肢体不自由の方の介護方法を通園施設の職員に教わったりしています。家庭にも同じように介護の仕方について教わりに行きます。学校にも運動会や授業参観などの行事を活用しています。そんな形で日常を事前に把握すると言うことを心がけています。家庭へのお願いとしては緊急一時保護所に親子で遊びに来てもらうようにしています。そのことにより、保護所が本人にとっては特別に預けられる場所じゃなく遊びに来る場所と思えるような感覚を持ってもらえれば良いと思います。養護学校に迎えに行くと、今日
は自分が迎えに来てくれたのかと勘違いする子が2〜3人います。そんな状況をどの子も持ってくれるのが理想かなと思います。反面、まだなれない子もいます。後でVTRに出て来て分かってしまうので正直にいいますが、私が迎えに行くと泣いてしまう子がいます。その子のおばあさんにも、『怖いおじさんに迎えにこられるとうちの子はないてしまうので若いお姉さんにきてもらってください。』と電話をもらってしまいました。この撮影の頃はだいぶなれてきてくれて泣かずに車に乗り込むことができたのですが、最後に車から降りる場面で、もう降りてしまってから、もう一度乗りなおしてください。とテレビクルーの人にいわれて、また、この人の車に乗り込まなければならないのかと、悲しい気持ちになってしまったようです。画面を見てまだ5才の子ですので、なれない大人と過ごしてエンエン泣いてしまうのも無理がないかなと思ってください。
日常性を保つうえでは、本人にとって実際になれた場所や親しみがある場所でなければ意味がないわけです。そこで始めて利用する家庭の場合、時間的な余裕がある場合は、なるべく2〜3回はお母さんと一緒に保護所にきてもらって預かる日が始めてではないようにと工夫しています。
登録については、用紙を提出していただくと共に家庭からは登録費用として15,000円頂いています。登録費用に関しては設立当初は頂いていませんでした。賛助会費制度と称して一般の方に、年間2,000円の寄付をいただく仕組みがあります。そこへ利用家庭からも賛助をいただける方からのみ頂いていました。しかし、行政からなかなか補助金をいただけない状況の中で、利用家庭のお母さん方の中から「自分たちも積極的に維持費を出して、『家族の努力だけではとても維持し切れないから補助して欲しい。』と堂々と要求すべきではないか。」という声が上がり、登録費用として頂くようになりました。また、登録をすることにより、いざというときには、このみがあると言うことを積極的に考えていって欲しいという思いもあります。それはどういう意味なんだと問われたときに、トッサに思いついたのが、保険として考えてほしいと言うことでした。保険として登録しておくことで何かあった時には介護が保障される。登録費には万一の安心感を買う意味が含まれていると言うことを伝えています。去年が12,000円で今年は15,000円と登録費が推移する中でこのみは急に営利団体になったのかと一部、ご批判をいただいています。そんな時に保険の話を持ち出して来て、月で割ると千円、一日で割ると30円。30円で毎日の安心が買えるなら安いものではありませんか、とそんな風に理解してもらっています。埼玉でこのみと同じようにレスパイト・サービスを行っている昴では、月3,500円で新聞を買うのと同じ値段で安心が買えると説明をしているそうです。
福祉サービスも安心感を得るためと生活の質を向上させるためのサービスであればそれと引き替えに利用する人が作り上げる立場でお金を払ってシステムをともに作りあげる、そういう時代になったのかなと思います。
受付け
登録していただいた方には依頼状況が発生した時には電話一本で受け付ける様にしています。基本の受付け時間は9時から5時までです。ただし緊急性の高い依頼の場合は、留守番電話とポケットベルを連動させた機能により、いつでも連絡が取れるようにしています。これはいつでも安心して預けられるようにすると言うことを活動当初から大切にしたからです。最初に始めた体制は、僕か、一緒に始めたパートナーか、とにかくどちらかがその家にいるようにして24時間の連絡が取れるようにしました。なぜそのような過酷な事を始めたかというと、ちょうどその時期、セブン・イレブンが日本に進出し始めの頃で、7時から11時の枠を外して24時間営業に転換する為に、盛んにTVコマーシャルをしていました。そのメッセージが「開いてて良かった。」と言うものでした。「いつでも」が「開いてて良かった。」と一致すると言うことで、24時間どちらかがいるようにしました。しかし、これが実に裏目に出ました。男二人が生活しているわけですから、段々自分たちの生活臭さのほうが全面に出てしまうんですね、そして利用家庭からクレームが付いてしまって…、それも直接ではなく、『あそこは怪しい。』と噂のように流れてしまったものですから、なけなしのお金をはたいてアパートを借りることにしました。そこでまたテレビのコマーシャルで目を付けたのが、今のシステムに近いもので留守番電話に録音をされた内容を外出先の電話から再生できるというものでした。その後現在のポケットベルを呼び出すという機械が売り出されました。お金がなくともすぐこういう目新しい物には飛び付いてしまう悪い癖があるものですから、24時間連絡を受ける方法として、このシステムを採用しました。利用状況が発生したならば、このみに電話をいれてもらう。留守番電話に要件を吹き込んでもらうと、電話機がポケットベルを呼び出す。職員はポケットベルが鳴ったならば外から留守番電話のメッセージを聞き出し必要があればすぐに駆け付ける。といった仕組みです。実際に夜間呼び出しを受けるというケースは年間を通しても、件数としてはさほど多くありません。今までの顕著な例では、自閉のお子さんが思春期にさしかかって家で暴れたくなってしまった時などに、夜中に要請を受けることがあります。『今、タンスに手を掛けていて…。早く来てください。』という風に連絡が入ります。実際にいってみるとすでにテレビは路上に転がっていてタンスを一人で持ち上げようとしていたり…。自閉の方の思春期の問題は毎年何家庭か起こるケースです。
また、子供の帰りが遅くなったり、いなくなってしまった時に一緒に探してくださいとか。心臓発作で倒れた兄を病院に運ぶ間、見ていて欲しいとか、単発では様々な依頼の内容がありました。年に何回かしか活用されないのに今でも続けているのは、まず家庭がパニックになってしまう前に連絡先が一つあれば、次の対応を考えるきっかけになるのではないかということを重視するからです。受入れ態勢が万全ではありませんので、すぐに駆け付けられない場合もあります。ただしすぐに駆け付けられなくとも、とりあえず連絡はこのみについて、その間、例えば一時間とか二時間半とか隣近所で預かって貰えれば何とかなるのでは…という思いからです。そのために父母会での話し合いでは、隣近所の付き合いも大事にしなければというような話しが行われています。ですから、救急車のように常に待機していないと意味がないのかというとそうでもないと思います。今、老人福祉では緊急通報システムという方式を採用し、消防署の通報システムを活用して整備していく計画があります。障害児家庭でも、このシステムを活用していけるんじゃないかなと思います。そういうことが現実化すれば、このみの試みも意味があったかなと思います。
話を受付けの手順に戻します。受付けの際には職員の側が書く「受付け用紙」というものがあります。まず、日時、名前、依頼の理由を確認します。確認した上で体制表で依頼に応えられるかどうかを確認します。この体制表は一週間が一枚で成り立っていて、一日ごとにその日の職員の出勤状況と頼めるボランティアの数、パートの数が書き込まれます。一日のキャパシティーがこれで確認できます。この表で確認したうえで対応できる場合はそのまま依頼を受け付けます。できない場合はとりあえず待ってもらいます。待っていただいている間に何とか介護にあたれる人を探して依頼に答えられるよう努力します。それでも人数をオーバーしている場合は、重なった依頼の中で緊急性が高い依頼を優先します。お母さんの用事などによる依頼の理由の場合は、他の日にずらしてもらえるような場合は事情を説明して協力をお願いします。もう一つの切り抜け方としては、本人の過ごし様を工夫します。少し遠くへ散歩する予定でいた子の過ごし方が、部屋の中で過ごす時間が多くならざるを得ないとか、制限を持たざるを得なくなります。できる限り家庭の要望に沿った対応をするという基本で依頼に応えようと臨んでいる姿勢と、提供する側にも限界というものがあって、その限界を皆で理解して足りない部分は補いあったり、分かち合ったりという考えがないと、充分に機能し切れないという点を理解してもらっています。
受付けの際には、次に、介護時の注意事項や介護方法などを確認します。介護方法としては三つの対応があり、一つは緊急一時保護所で預かる、一つは本人の自宅で預かる、もう一つは送迎だけの関わりです。基本的には保護所で過ごすと言うものが圧倒的に多い希望です。
基本的に預かる際の送迎は、家庭が行う事が基本となっています。しかし、家庭で送迎ができない場合、依頼があればこのみが行います。ほとんどの依頼には送迎の依頼が伴っています。ですから介護始めをどのようにするかの確認は重要となります。それが送迎という欄でそこには既にこのみ家庭という文字が記入されています。このみが迎えに行く場合にはこのみに丸をして、その横の鍵括弧の欄に『昇降口で待つ』などと書きます。家庭によっては、帰宅訓練をしているので100メートルぐらいの先の柱の影で気付かれないように待っていて、昇降口からそこまでは一人通学させて欲しいとか。駅の改札で待っていてほしいとかいろいろあるわけです。
食事については、例えば保護者会とかお母さんの用事などで預かる時など、一日一食限りの場合は、基本的には家庭でお弁当などを用意してもらうようにしています。しかし子供によってはこのみで店屋物を食べるのが楽しみと言う子がいるものですから家庭の判断に委ねています。麺類が良いとかご飯類が良いとか大雑把なオーダーから、うちの子はオカメうどんしか食べませんとか、焼きソバじゃないと駄目なんですとか、上のおかずだけサッサッと食べてしまうので、ご飯も一緒に食べるように声かけしてくださいとか、そんな細かなことも依頼を受ける際に確認しています。
アフターケアー
介護を終えた後ではケース記録をつけます。対応した人が書いて次の介護の際の参考にします。また週一度、職員会議を行っていますが、その中でケースの振り返りを行います。好きな過ごし様とか、好きな食べ物とか、こだわりについてとか、健康状態…特に発作の様子などを確認します。次に対応するときには役に立つような情報を職員会議でお互いの共有の情報となるように交換します。
このみへの依頼が基本を外れている場合、例えば、家族の主体性が感じられず、依存傾向ばかりが目立つ場合とか、本当はこのみに頼むよりは自分で解決するとか、他で解消するべきだったんじゃないかと思われるような場合、職員間で家庭状況について検討します。これらの問題を感じた時点で速攻で返すとトラブルの元となります。こちらの考えが足りなかったり、言葉が充分に伝わらなかったり、お母さんがうちの子だから見たくなくてそういうことを言うのねと大幅に勘違いされたり、本意が伝わりません。ですから現在ではとりあえず依頼という形でこのみに届いた場合には、介護を終えてから、少し時間をかけながら、このみの考えを伝えて行くようにしています。
このみの援助はあくまでも側面からの援助ですから、家族の主体性がないと両者のバランスが崩れてしまいます。依存傾向が強くなりこのみがないと生きていけないと行けないと言う状況は酷くバランスを崩しています。
けれどもできる努力はしないと依頼を受け付けませんとか、最低限ここまでは家庭でやってもらわなければなりませんと言う基準を不用意に持つ事は、家庭を追い込むことになりかねません。バランスのことは考えつつも、レスパイト・サービスが理由を問わずに預かるという点で窓口を広く持っていると言うことはとても重要な要素だと思います。


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