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パネルディスカッション

保育者の国際的視野の向上を求めて

座長兼パネラー

山岡 テイ(情報教育研究所代表)

パネラー

諏訪 美智子(スワミチコこどもクリニック院長)

佐藤 智美(聖徳大学助教授)

猪股 祥(平塚保育園長)

 

提案要旨

「笑顔」から始まる異文化理解の一歩

山岡 テイ(情報教育研究所代表)

 

1994年から、国際幼児教育学会の部会として、『在日外国人の子どもの保育』研究会の企画を担当しています。研究会の参加者は、現場の保育者や外国人保護者、保健医療関係者、地域のボランティア活動家、保母を養成する教員や研究者などです。近年、保育所に増え続ける外国籍の子ども達をめぐる課題を各々の立場から実情を報告しあい、研究調査結果を発表しながら、お互いの情報交流を行っています。その活動を通しても、保育所と保護者、地域や家庭でも多種多様な問題を抱えていることが明らかになっています。

ところで、この十数年間、私はアジア、アメリカ、オセアニア、ヨーロッパ各国の保育所・幼稚園・保健所や病院などの施設や研究所、関係省庁を廻り、さらに家庭での子育ての様子や就学前の教育状況などを学ぶために訪問をしつづけています。

はじめての施設や家庭を訪ねることが多いのですが、年を重ねて、同じ園に何度か繰り返し訪れる機会もあります。どの国でも保育施設は生き物のように呼吸をして成長しています。年ごとに子ども達や先生の構成メンバーが変わるだけでなく、人生のような成長期・成熟期・老齢期を感じます。近年は、どの国でも、とくに中国人を中心としたアジア人の進出が目立ちます。中国の都会の保育所も半年のペースで、大きく様変わりをしています。

オーストラリアやアメリカなど多民族社会では、英語を話せない子どもが保育園になじむのに多くの時間と保育者の手助けを必要とするケースによく出会います。子ども達の家庭背景は移民二世であったり、政情不安から逃れてきた難民、親の仕事での短期滞在者などさまざまです。もともと多文化社会の歴史をもつ日々ですから、連邦政府や地方行政、地域コミュニティなどそれぞれに独自の受け入れプログラムが用意されており、今後の日本の保育行政に示唆する内容も多くあります。

しかし、実際に個々の施設を訪れると、現場の保育者達は文化や言葉の違う背景の子ども達やその保護者達と日々格闘しているのが現状です。保護者達のほうも、子どもがその国の公用語を話せる必要性を感じながらも同時に、自らの民族や宗教による生活習慣や食文化などを受け継いで欲しいという願いがあります。そして、ひとりー人の子どもとその家族背景を理解しながら保育をするためには、園や保育者が試行錯誤しながら、それぞれ個別の対応を工夫していることに気づきます。

海外の家庭や保育現場を訪れて、なにより嬉しいのは子ども達や保育者、親達から心のこもった「笑顔の歓迎」を受けたときです。

共通言語を習得して、言葉の壁を乗り越える理解は大事なことです。でも、今すぐにできる異文化交流の第一歩は、異なった生活習慣や価値観に対して、まず心の扉を開けて、子どもや親に心からの微笑みを贈ることから始まるのではないでしょうか。

 

 

 

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