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(2) 流氷の発達史とマイクロ波散乱特性

海面の状態は開水面から厚い氷盤までさまざまな状態にある。ここでは海氷(海水が凍る場合)の発達段階とそれぞれの段階でのマイクロ波の散乱特性についてとりまとめた。

マイクロ波の散乱特性に影響する開水面あるいは流氷の物理的特性は、

・ 表面の粗度

・ 温度

・ 塩分

・ 空間構造(流氷内部の不純物や空隙の存在など)

・ 積雪・融水の有無

である。温度と塩分は電気的特性である誘電率を変化させることで間接的に後方散乱強度に影響を与えている。海水から氷へと相変化することにより、これらの物理特性が変化し、マイクロ波の散乱特性の変化としてSAR画像上で認識される。

? 開水面

波浪のない状態では、海面は粗度の小さい滑らかな平面となる。このため入射したマイクロ波は多くが鏡面散乱し、後方への散乱は非常に小さい。SAR画像ではこのような海面は低輝度に表現される。

海上を風が吹いて風浪が発生している状態では、マイクロ波の波長と波浪の波長がブラッグ散乱の条件を満たすと非常に大きな後方散乱が生じることとなり、画像上で高輝度に表現される。また、このような後方散乱はマイクロ波の入射角が大きく影響しており、入射角が小さい程、鏡面散乱による後方散乱が大きく、入射角が大きくなるとブラッグ散乱による後方散乱が大きくなる。

? 初期(晶氷〜ニラス〜板状軟氷)

海水が結氷点に達して初期の晶氷(グリースアイス)ができ始めると、海面は油を流したように穏やかとなり波浪(特に波長の短い風浪)の発生・伝播が抑制される。このため晶氷のでき始めた海域の粗度は減少し、周辺の風浪のある開水面と比較してマイクロ波の後方散乱は減少する。

さらに晶氷が集まりニラスと呼ばれる薄い板状の氷、それが成長して板状軟氷となる。これらの状態では氷盤としては薄く表面粗度も小さいが、氷盤間の衝突によって氷盤の端がめくれあがりはす葉氷と呼ばれる形状になると粗度が増加する。また、氷盤の乗り上げ等によりPressure Ridgeと呼ばれる盛り上がりが氷盤の境界部に形成されることがあり、この場合も表面粗度が増加する。

また、氷盤上に積雪があれば、氷盤の表面(積雪の下面)での表面散乱に加え、積雪内部での体積散乱が加わるため後方散乱は増大する一方、積雪面の粗度が氷盤の表面粗度より小さいと後方散乱は減少する。

? 一年氷

板状軟氷からさらに成長し、氷厚も増加している。生成してから時間が経過し、衝突などによる変形、積雪、表面的な融解と再結氷などの作用を受けている可能性が大きくなる。

 

 

 

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