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絡み合った国内法、および沿岸資源とその有用性に関する情報の欠乏が挙げられた。後段の二点の理由は大なり小なり各国に共通な問題点であったが、第一の点はカナダ固有の問題であった。幾多のシンポジウムやワークショップを通した市民各層の沿岸問題に対する認識の普及は湾内や地域の問題として集約される様になった。この種の市民運動は先行していたアメリカ、特にニューイングランド地方に隣接するノヴァ・スコティア、ニュー・ブランズウィックの大西洋側の各州に広まった。北方の原住民居留区でも沿岸問題の意識が高まり、総括的な北極圏環境保護戦略として結実した。国家科学技術諮問評議会は1994年に海洋と沿岸と題する報告書を首相に提出し、そこで「海洋と沿岸資源の管理に関し政策的空白が生じる様な事があると環境および経済の両面に重大な問題が起るであろう」と警告すると同時に包括的な海洋基本法の制定を進言した。これを受けて政府は1995年6月にカナダの海洋支配権のおよぶ範囲、海洋管理の戦略および連邦政府の海洋に対する責務を骨子とした法案をCanada's Oceans Act(COA)として提案し、1996年12月18日に可決された。

 

海洋基本法(COA)は、第一部で12マイルの領海の制定と200マイルの排他的経済水域(EEZ)の制定を記し、同時にEEZ内での生物および非生物資源の採集、採掘および保全に関するカナダの権利と義務を規定した。カナダは同時にこの水域内で海洋環境を守る事、海洋研究を推進する事、そして海洋構造物の規制をする事に支配権を有する事と同時に責任を負う旨が規定されている。第二部ではCOAを実施する上で海洋資源の保護と保全の為に海洋保護区の設定する事、沿岸域の統合的管理を展開し実施する事、海洋生態系の保全・保護の対策の展開する事の権限を担当大臣に委ねている。第三部ではCOAを円滑に実施する為に海洋に関する権限を海洋漁業省に一元化した。

 

DFO東海支所スカトロン支所長上級補佐によるとCOAは1997年1月に実施段階に入り担当大臣である漁業海洋相の指揮の基に海洋環境の数量化と海洋保護区設定の作業が開始された。特に、実施に当たっては中央政府は主導せず地方政府(州、市町村などの・・・)に可能な限り権限を委譲し、民間の非政府組織(NGO)の広い参加を基礎とした事は特筆に当たる。スワンソンDFO生息地管理・環境科学局長は海洋環境の数量化につき「石油・ガスなどの採掘現場からの汚染物質の流出量の許容可能なレヴェルを設定する上では役立つ」としながらも、国家レヴェルでこの様な最低基準値の必要性の検討が進んでいる事を示唆した。

 

 

 

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