4.今後の課題
前節および前々節に、操船シミュレータ実験ならびに海上交通流シミュレーションを通じて得られた、「順中逆西」「右側通航」の問題点を抽出し、それぞれの対応(案)を整理した。ここではこれらの対応(案)をより具体的・現実的に検討するために今後必要と思われる課題を整理した。
4.1評価基準の策定
提唱された評価方法、評価指標について絶対的な評価基準の策定が求められる。
来島海峡航路航行の特殊性に鑑み「潮流が操船に与える影響の評価」「潮流が操縦に与える影響の評価」「潮流が測位に与える影響の評価」および「海上交通環境の評価」の評価指標について検討した。個々の評価指標についてみれば、船型や航法の違い等による特徴を捉えることができ、それぞれ有効な指標であることが確認された。しかし、操船者にとって「安全である」「危険である」など当問題に求められている絶対的な尺度(評価基準)による判断は行えていない。
また、今回は各評価指標にもとづく評価の結果を一律に扱ったが、評価値の間には「重み」が存在すると思われる。
それぞれの評価指標についてさらなる研究・調査を進めて評価基準を策定するとともに、評価値間の「重み付け」についても十分な検討を加え、より合理的で有効な総合評価の方法を確立する必要がある。
4.2潮流場(モデル)の精度向上
実海域における集結による実験は実施上大きな困難が伴うことから、シミュレーション、シミュレータを用いた検討方法は必要かつ有効な手段であり、そのため、再現性の高い潮流場(モデル)の策定が必要である。
本調査では、新たに潮流場(モデル)を作成し、最強流速時(北流および南流、約9ノット)を取り出してシミュレーション、操船シミュレータ実験に使用し、その結果流向等の平均的な傾向としては概ね現実のものと比べて良好であるとの操船実務者のコメントを得た。
しかしながら、来島海峡の潮流の特徴である、渦流、湧昇流、潮目が再現できておらず、さらに複雑な局所的な流れが存在する他、流速が中間程度の場合に現れる渦流等もあり、流速に応じて渦等の様相が異なるとの指摘がある。
今後の検討・実験の精度を高め実りあるものとするために、参考資料に示した潮流影響の計測等も含め、より精度の高い潮流場(モデル)の調査・研究とともに、これに対応した船舶の運動モデルの向上が必要である。