3.2.3航路帯と操船シミュレータ実験の評価
一般に船舶の航行に際しては目標航路が設計されるが、他船との遭遇状況等の事由により、必ずしも目標航路上を航行するとは限らない。特に、来島海峡を通峡する場合には目標航路から外れると潮流の影響を強く受ける可能性がある。
そこで来島海峡通峡の目標航路を複数設定し、それぞれの航路における潮流の影響の程度をシミュレーション手法を用いて把握することとした。
ここで、複数の目標航路は操船シミュレータ実験での操船者による目標航路を基準とし、これを左右に平行移動して設定した(50m間隔で3本づつ、基準とあわせて7本の航路から成る)。船舶は操船シミュレータ実験での自船船型を考慮し、船長200mと75mの2船型とした。また、速力は12ノットとした。
操縦シミュレーションの結果を図IV-3-28から図IV-3-33に示す。
図中の点線は設定した目標航路(7本)であり、各目標航路に対応する航跡を50mの幅で示している。航跡の色の濃淡は評価指標値の大きさに対応している。
また、「船型」で示された航跡は操船シミュレータ実験の操船結果を表している。
評価指標は舵角、船体横方向の潮流速および斜航角であり、操船シミュレータ実験の「船型」も同じ濃淡を付けている。ただし斜航角の図については、操船者の感覚との対応を確認するため、操船シミュレータ実験の「船型」には実験の立会い人による危険感覚のアンケート結果を示した(「非常に危険」を黒、「かなり安全」を白とした、以後「主観評価(値)」と呼ぶ)。操船シミュレータ実験における斜航角の変化は、実験での航行距離系列のグラフとして示した。
(1)シナリオ1(順中逆西:北流・中水道・北航)
操船シミュレータ実験での大型船は、目標航路(帯)を短絡(ショートカット)するような航跡となっているため、操縦シミュレーションの航路帯に比べて変針点付近での舵角の現れは少ない。斜航角も終始基準値を下回っている。
操船シミュレータ実験での小型船はほぼ航路帯に沿って航行しているが、舵角は大きくとられていない。これは、操縦シミュレーションでは変針点付近で舵が大きくとられるのに比べ、操船シミュレータ実験では、小刻みな操舵による保針・変針操船がとられたためと推察される。また、斜航角では最狭部手前と中水道の北側水域付近のそれぞれにおいて、操縦シミュレーション結果と主観評価が逆転している(操船シミュレータ実験での斜航角は基準値を超えることはなかった)。これは、主観評価には実験における他船の存在が大きく影響していると思われ、必ずしも斜航角の大小が危険感覚を左右するものではなかったと思われる。