3. 大型タンカーの操縦性能
3.1 巨大タンカーの操縦性
(1) 序
今回のダ号座礁事件の遠因のひとつは、東京湾の輻輳度の類例のない高さとそれに伴うパイロット、船長への心理的圧迫であろうが、主因は操船者の人為的なミスであるといって間違いないであろう。古来、乗り上げは船乗りの恥といわれており、今回の事故における船員の猛省が求められる。
ところで、昭和40年代大型タンカーが出現し我が国の海域を航行するようになって以来、このような巨大タンカーの特異性に起因するさまざまな問題、特にその操縦性能の劣化が問題となり、特に東京湾のような海上交通の頻繁な海域、地理的に制約された水域における航行上の影響が無視出来ないことが多くの海事関係者、研究者の間で指摘されてきた。そして、それを機に当時研究の第1線にあった研究者により、「超大型船操船の手引き」[1]が書かれ、学問的な立場からさまざまな指摘と特異性に関する説明がなされた。そこで明らかにされたタンカーの特異性は、大幅な船型改良がなされていない今日でも十分価値あるものである。そこで、ここでは「超大型船操船の手引き」を補充する意味で、その後行われた実船試験、模型試験において得られた2,3の結果を解説する。ただし、係留、錨泊などに関しては今回の事故とは直接関係がないので、省くことにする。
ところで、1977年の7月から8月にかけアメリカにおいてメキシコ湾の浅い海域で、浅水影響などを調査するために、278,000DWTタンカーを使って大がかりな操縦性実船試験がアメリカコーストガードが中心となって官民一体で行われた[2]。水深と喫水比が1.2という極めて浅い海域での危険を伴う実験であったが、得られた成果は巨大タンカーの実際の挙動を示すものとして貴重なものである。
ここではこの資料を基礎資料のひとつとして、今回の事故と関係する事項について考察する。また、スウェーデンのSSPAで行われた190,000DWTクラスのタンカーの模型試験結果[4]もタンカーに関する系統的な実験として注目される。我が国においてもIMOの操縦性基準の策定などに関して貴重な研究成果が発表されつつある。このような資料を総合し、改めて巨大タンカーの操縦性能に関する留意点を明らかにし、最後に今後早急に取り組む必要のあるタンカーの操船支援システムについて考察する[3]。
以下、主として2隻のタンカーの実船試験、模型試験成績を使ってタンカーの操縦性の特徴を示すが、それらのタンカーの主要寸法を、最後の付録の付表1,2にまとめてある。
(2) 実船操縦性試験
実船の操縦性能試験で調査される事項としては、
1)操舵特性(舵、スラスターなどによる針路制御)