現在使用中の事故データベースに伴うこうした問題に対しては、ブリッジでの手近な業務を徹底的に評価できる船長が記録ごとに量的検査を行うことにより対応できる。記録のなかには、事故状況を表記する際に事故原因を再構成した方が良いものもある。普通の条件下における非安全速度の原因に寄与する要因としてではなく、衝突原因として視界を挙げるといった問題は解消されよう。今回の研究では、カナダの事故記録を数グループに大別する際にこの方法を採用した。
表2は、セント・ローレンス川とその寄港地及び入港路、デービス海峡とラブラドル海、バーロー海峡とランカスター海峡、北極海港湾に関する事故タイプ別事故原因の分布を示す。この表は、1組の人的過誤パラメータを生成する際に使用したいくつかの情報源の一つであるが、カナダ東部の船舶事故記録をカバーするために特別に作成した唯一の情報源である。
分析において水路を種類別にしなければ、表2に示したものとはまったく異なる特性表示になっていただろう。夏期には南部の数港であらゆる種類の事故が多発するが、セント・ローレンス川ではほとんどが座礁である。文献では、事故原因として人的過誤が圧倒的に多いことが繰り返し引用されている。セント・ローレンス川における事故の場合も同様であろう。しかし、セント・ローレンス川における座礁事故の原因を調べてみると、推進機、電源、操舵システムの故障が最も重要な役割を果たしていることが明らかになった。そうした調査結果を揺るがせ、より広く受け入れられる見解を形成するのは、港湾での追突、衝突及び座礁原因となる操船過誤である。北極海における最大の事故原因は操船過誤と、氷塊タイプの観測または判定間違いである。
表3と表4では、航法リスク・モデルにおける事故コストの試算に使用したデータ・パラメータを特定している。こうした試算値の出所はTNSSデータベースに経時的に記録されているので、オペレータとしては何らかの値を変更し、新しい出所への正当な変更理由を入力する機会もある。こうしたデータ・パラメータは次のような方法でTNSSへ導入される。各航跡ごとに、事故タイプ別に算定した確率に各事故結果確率とその関連コストを掛ける。航海プラン全体に対して航跡ごとにこの算定法を繰り返す。