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4.2 航法リスク・モデル

航法リスク・モデルに対しては検定も有効性検証も行わなかったが、Institute for Risk Research(リスク研究所)が独自に検査を行った。同研究所では、「海運業界にこのモデルを公開する前には」、過誤樹形図の各改訂版に対する現行改良作業を少なくとも「もう一つ新しい改訂版まで」続けるべきだという勧告を出した。つまり、さらに感度試験を実施し、非常にむずかしい問題となったものを評価する前には、学界による情報提供が望ましいというわけである。今後の開発基盤として、このモデルは航法慣行に基づいた方向と数値によるリスク推定値を提供した。さらに、このモデルから試算された事故発生率は、セント・ローレンス川とデービス海峡を対象に検査した上、過去の交通及び事故データから算定した事故頻度と比較した場合に1桁以内に納まることが明らかになった(表1)。

 

4.3 ルート・プラニング

北極海の一区域への進入を管理するために、カナダ政府は船舶の耐氷性と予測氷原条件に基づき氷原での船舶性能限界値を設定している。TNSSは、Passage Planning Manualから数値化された6月11-17日のサンプル期間における過去の平均的氷原条件を使用して、ice numeral(耐氷値)やice decision numeral(耐氷決定値)というこうした限界値を算定する。航路(passage)プラニングに使用するために、こうした算定値から、特定区域を航行する船舶に対する氷塊による損壊リスクを試算した。平均速度と耐氷値の間に有意の関係があるかどうかを判定するために、少数の船舶通過サンプルを調べてみた。

次のように、耐氷決定値に応じたサンプルの平均速度に対する第3次回帰分析を実施した。

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この場合、Yは氷原における耐氷決定値当たりの平均安全速度推定値である。この関係式では0.70のr2値を示した。この場合、総変動値の70%を回帰関数で説明した(図4)。耐氷決定値の算定値は氷のタイプと密度、それに船舶タイプに応じて異なるので、その関数を使用してこうしたデータにおける安全速度を予測した。この安全速度を使用すれば、船舶の耐氷性能、つまり前進速度(SOA)を予測できる。さらに、超過速度が通常氷原航海士の設定した速度制限を超えると、船体、推進システム及び操舵システムに損傷を与える恐れがあると思われるので、氷塊による損壊リスクも予測できる。

地理情報システム(GIS)には、大旋回距離を算定する機能も組み込まれている。こうした機能は、TNSSオペレータに航跡情報を提供する場合に必要となる処理を単純化した。航海士が描く各航跡のコース(針路)と長さの算定に短距離を使用するために、短距離航行アルゴリズムをプログラミングした。出力データの一部として中間点情報も導入したので、この原型システムは電子海図表示情報システム(ECDIS)とも統合化できる。

 

 

 

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