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平成9年度

国際理解のためのアジア文化講座「東南アジア」

(6)「東南アジア:文明論の“孤児”?」

日時:11月14日(金) 13:30〜15:30

場所:きゅりあん(品川区民総合会館) 6階大会議室

飯島 茂 東洋英和女学院教授

 

飯島茂(1991)

「日本文化の原像・島の心と大陸的理論―」淡交社

 

れている。前述のように、父系社会が、どちらかというと、硬構造をもった“金属型”の社会だとすると、非単系社会の基層は、軟構造をもった“ゴム型”社会といえるのではなかろうか。非単系社会においては、一般的に、親族といえども、あまり凝集力をもたず、自律集団を形づくっていない。もし、なんらかの形で、自律集団が形成されたとすれば、それは外部からの社会的、文化的刺激への反応と考えられよう。

 

非系社会の特徴

いずれにせよ、日本列島のような双系社会を含めた非系社会の特徴は、大掴みにいってつぎの七項目に要約することができよう。

?@ 小集団中心型社会

?A 非結晶型軟構造社会

?B 二者関係(dyadic)中心の社会

?C 以心伝心型社会

?D 慣習法の世界(ルールより、現実肯定、情況主義的世界)

?E 言語などの島嶼型表現

?F 蓄積体系の未発達な社会

 

島嶼型(insular form)

元来、言語学でもちいられた用語法である。島嶼的社会は、大陸的社会に比べると、社会の規模も小さく、成員の同質性が高い。そのため、コミュニケーションの密度は高く、またその方法は、控えめであり、成員間の相互信頼度も高い。“大陸的”社会に比べ、“島嶼型”社会は、孤立して恵まれた生態系のもとにあることが多いので、人々は、一般的に呑気で、屈託がない場合が多い。

 

以上のような、日本列島における非単系型の南島的世界の諸特徴について、若干の補足説明を加えておこう。

すなわち、非単系型社会は、父系社会に比べると、前にも触れたように、リニエッジ、氏族、部族などの発達が、あまり見られない社会である。従って、組織よりは、個人や家族中心の社会であり、基本的には、小規模社会であると考えてよかろう。こうしたことの延長線上に、弾力性がある非結晶型社会が形成されている。

また、人間関係も、あまり拡がりをもたず、二者関係型で、“家”制度の枠があるために一辺倒型でもある。また、この社会に属する人々は、雄弁型のコミュニケーションよりは、以心伝心型のコミュニケーションを好む。言語的な表現などでも、島嶼的形態をとり、中国人のような“白髪三千丈”や“牛涎萬丈”的な大袈裟なものよりも、自重した、地味な表現を好むだけではない。むしろ、“不言実行”型の非言語的コミュニケーションや行動に価値を置くことが、社会的に評価されている。もっとも、その背景には、島嶼型社会においては、ひとつのコミュニティーの規模が小さく、文化的同質性も高く、住民間の相互理解が、比較的容易であることも、非言語的コミュニケーションに依存することを、より可能にしているといってよか

 

 

 

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