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八章 結論 市場庄の町屋と町並の特色

 

1. 町屋の特色

妻入の主屋

妻入の町屋は平入の町屋に比べて全国的に例が少なく、分布する地域は限られている。その分布圏は新潟県から青森県にかけての日本海沿岸地域で広範な分布を示す他は、それぞれ孤立的であり、比較的狭い範囲に局地的に分布している。東海近畿地方では、妻入町屋が町並の中で卓越する地域は、この市場庄を含む伊勢市周辺の比較的狭い範囲が主要な分布地となる。

平入町屋は比較的地域差が少ないが、妻入町屋は分布圏が孤立的で、分布圏相互の関連に乏しいためそれぞれ建築的な性格を異にし、地域的な特色を濃厚に持っている。本報告は、このように全国的にも例の少ない妻入の町並についての報告である。

格差の少ない主屋の規模と平面

市場庄の町屋主屋の規模は敷地の大小によらず、間口は三間半〜四間半程度、奥行は五間前後となり、相互の規模の差は少ない。また、間取もほぼ同一の形式となる。これは、敷地間口の規模に対応して主屋の大小が決まり、間取や居室の数も増減する一般的な町屋のあり方とは著しく相違する点である。このように、敷地の大小に関わりなく、主屋がほぼ一定の形式となるのは、農家に近い。

平面の特色

市場庄の町屋の平面は片側に土間、片側に居室があり、居室は表に面する、ミセ、ナカノマ、裏に面するザシキの三室が連なる構成を基本としている。このような構成は町屋としてはごく一般的である。

平面で特に特色があるのは第一に、表側の他に南側面にも出入口が開けられ、また、窓が設けられて、主屋は南側にも開放されている点にある。これは、側面には隣家が迫り、全て壁で閉ざされる一般的な町屋と大きく異なる点である。

第二の特色は、食事のためのダイドコロが、本来の居間であるナカノマとは土間を隔てた位置に独立して設けられ、南面からの日差しの入る居住性のよい居室となることである。第一、第二は、ともに市場庄の町屋を特色づける重要な特色である。

敷地の利用

農業のための納屋、米蔵が設けられ、裏は田畑に続く。一方

 

 

 

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