六章 町屋の建築的特色
1.調査対象建物の概要
建築施設種の構成
市場庄の町並を構成する歴史的な建築施設の殆どは町屋であり、それ以外の主要な現存建築施設としては、以下が挙げられるに過ぎない。
寺 院 神楽寺(曹洞宗)
神 社 米ノ庄神社
公共施設 公会堂(旧米ノ庄村役場)
産業施設 旧米銀(味噌醤油醸造業)倉庫
このほか、住民を対象とする共同風呂が数施設、昭和戦後まで維持されていたが、この調査ではその確認はできなかった。また、近世には伊勢街道の通行者を対象とした遊技施設である機関的(からくりまと)の存在が「伊勢参宮名所図会」で知られるが、その所在も不明であり、史料的にはこのほかの施設は確認できない。
市場庄の町並はこのように、町屋に著しく特化し、寺院や神社もそれぞれ単一施設に眼られをる単純な構成を示している。また、明治以降も公共施設や産業施設の立地が進まなかったことは、市場庄の町並の大きな特色である。
一方、少数ながら現存するこれらの寺院や神社、公共施設、産業施設はいずれも市場庄の人々の生活に関わり、あるいは景観的な核となる重要性の高い施設であり、これらの建築的な特色については、章を改めて七章で述べることとする。
町屋の実測調査
市場庄の町屋については、調査担当者を同じくする三重県史建築編のための実測調査を別とすれば、建築史的な観点からの調査は行われていない。そこで、今日の調査では以下の三点の解明を主眼として、町屋の実測調査を行うこととした。
1)妻入町屋の類型や建築的な性格
2)妻入町屋と平入町屋の性格の相違
3)市場庄の町屋と周辺の町屋、農家の建築的相違
調査対象となる町屋は、明治期以前に遡ると判断された伝統的な形式を持つ町屋を中心として、地元協力員の助言を得て保存状況の優れたものを、妻入、平入含めて候補二〇件を選定した。うち、承諾の得られた十一件について実測調査を行った。本報告書では、これに同じ調査員(菅原、嶋村、大森)が三重