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一章 調査の概要

 

1.目的

市場庄(いちばしょう、三重県一志郡三雲町)は、旧東海道日永追分から伊勢神宮まで、伊勢湾西岸に沿って南下する旧伊勢街道の町並であり、四里を隔てた津、松坂の二つの宿場を兼ねた城下町の中間に位置している。町並は、周辺を水田で取り囲まれた平坦地に立地し、妻入町屋や土蔵が軒を連ねた独特の佇まいを留めている。

本調査は、この市場庄の歴史的な町並について、歴史と現状を的確に把握し、学術的に意味のある記録と分析を残すこと、この町並の将来像を考える際の材料を整備することを目的としている。

市場庄の町並は単に歴史的な景観を維持しているに留まらず、次のような点で特に調査者の関心を引くものであり、全国の町並の中でも固有の意義を持つ、個性的な町並と考えられる。

1)妻入町屋の町並であること

市場庄で、伝統的な形態を持つ町屋の殆どは、陳を道に直交させ、道側に主要な出入口を設けた妻入となる。妻入の町屋は平入の町屋に比較して、全国的に見ても分布する地域が限られ′ており、また、その構造や平面も地域ごとの差異が大きく、それぞれの地域の固有の住居の特質を示している。

2)特異な分布状況を示していること

近畿地方以東の太平洋沿岸で妻入町屋の主要な分布地域として、伊勢市周辺が峯げられ、市場庄の妻入町屋も伊勢市周辺の妻人町屋との関係が想定される。しかし、より詳細に見ると市場庄の北に連旦する六軒や南の松阪は平入町屋の卓越する地域であり、市場庫は妻入町屋の分布上、孤立した位置を占めている。このような分布圏のあり方そのものが関心が持たれる。

3)伊勢参宮の町並であること

近世の庶民文化の中で非常に重要な役割を果した伊勢参宮は、陸路による場合、この参宮街道を通行するのが一般的な経路であった。市場庄は近世には街道の通行者に参宮に関わる土産物、雑貨を商う町屋が多く、参宮に関わる民俗や、当時の家屋の利用状況に関心がもたれる。

調査は、このような市場庄の町並の特質や歴史的価値に迫ることを意図している。また、一方で津市と松阪市の中間に位置し、国道二三号線、四二号線が町内を縦貫する立地から、市場

 

 

 

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