第4章 衛星による海氷観測の比較解析*
第3章ではマイクロ波放射計による海氷観測技術について述べたが、同じマイクロ波を使う合成開口レーダ(SAR : Synthetic Aperture Radar)を用いた海氷観測がカナダ等では実用化されている。SARは昼夜を問わず、また雲に覆われている海域についても海面の情報を観測可能であることが大きな利点である。本章ではSARの有効性について、可視赤外センサと比較しながらまとめてみる。
4.1 海氷のレーダ画像
レーダで受信される後方散乱電力は、海氷の表面状態および海氷上部の特性に依存する。例えば積雪、海氷の表面粗度、誘電率などのパラメータがあげられる。海水のように誘電率が大きい物質の場合には、電波は物質中にほとんど侵入しないが、乾いた雪や氷などのように誘電率が小さい場合には電波はある程度侵入し、電気的に不連続な面で散乱される(図4.1)。
海氷の状態は海氷の年齢によって大きく変わる。多年氷(Multi-year ice)の場合には塩分が低く、後方散乱電力は海氷内の上部でほとんど散乱される。一方、一年氷(First-year ice)の場合には塩分が高く、海氷の表面でほとんど散乱され、表面の粗度が大きく影響する。また、この海氷の年齢による違いに加えて、電波の入射角によっても後方散乱電力は変化する(図4.2)。図示のように、入射角が大きくなると後方散乱電力が減じること、多年氷と一年氷による後方散乱電力の差は夏季が冬季よりも少なくなることが分かっている。
図4.3は氷厚および海氷状態と後方散乱電力の関係を示したものである。海氷が生成されはじめてPancake Iceになるまでは後方散乱電力は大きくなるが、それ以降氷厚が増すに従って、海氷の表面が平らである限りは後方散乱電力は小さくなる。
このほか、海氷が融けてくる季節になると、海氷の温度と積雪が後方散乱電力を支配する重要なパラメータとなる。とくに乾雪であるか湿雪であるかが大きく影響する。しかしながら海氷状態と後方散乱電力の関係についてはまだまだ不明な部分が多く、さらなる研究が必要である。
*執筆者 鈴木靖