シンポジウム前半が長引き、パネルディカッションの時間が少なくなったが、前半の基調講演や事例発表をうけて密度の濃い、引き締まった内容での討議となり、コーディネーターとパネリストのやりとりも面白く出席者のアンケートでも極めて好評であった。
まとめでは「気づかないで足元に埋もれている観光資産を資本化しよう」との提言がなされた。
以下、簡単に概要を記す。
・ コーディネーター(高田)
日本人の海外旅行者数に比べ、日本を訪れる外国人数が極めて少ない。この理由は何かというと、恐らく日本に魅力がないということであろう。では、その魅力を高めるのにはどうしたらよいのか。阪神大震災以来世界に流れる日本がらみのニュースは政財界、企業のスキャンダルなど、明るいものがないのでなおさらである。「ウェルカムプラン21」を成功させるためには、国まかせではなく、地域の我々自身が取り組まなければならない。
・ パネリストの最初の意見
神 崎: 江戸時代の旅人は自分たちが見聞することで得をしたが、又、旅先の土地へも種をまいた。(狩野派の絵描の例)旅をする人、受け入れる人、旅の世話をする人の三方三得が必要。又、文化的資源で人を呼ぶのはもちろん、人的資源で呼べるようにならないと駄目。
井野瀬: イギリスを専門にしているが、国際観光といえばトーマス・クック。19世紀に格安団体旅行を始め観光の産業化がイギリスではじまった。サッチャーさん時代、中央集権化が進んだが、逆の意味で、地方がクローズアップされた時代。これからは国レベルではなく都市の時代、都市が文化資本をプレゼンテーションし、互いに競争してゆく。
このシンポジウムで強調しておきたいことは、産業がダメになったイギリスだが、文化を資本とした観光では6%の成長を毎年続けている事実。これには価値観の変換が必要であった。日本がイギリスから学ぶことは多い。
広 野: 仕事として、市町村、自治体から文化振興・まちおこしを依頼されている。成功例は少ない。唯一、富山県高岡市の例がある。それは発想を変え、人を呼ぶのではなく、まず自分のことを知ること、自分たちの町の魅力を再発見することとした。
コーディネーター:
では、「地域文化の活用」の事例を紹介していただきたい。
神 崎: 戦後の教育の中で、地域の文化、「自文化」を見落としている。そして、我々自身に魅力がなくなった。異文化(相手)を理解するのと同時に自文化を相手に理解してもらうよう努力することが必要だが、この見直しが学校教育で必要。
コーディネーター:
イギリスの評価は19世紀には低かった。しかし、今では紳士の国となり、しっとりと落ち着いた、ゆとりある生活をしようと思えば、皆、イギリスに出かけるようになったのはなぜか。
井野瀬: 英国の中産階級とは人から見られていることを気にする人々の集まりと言うわけでお節介やきなのだ。この人々がナショナルトラスト、オープンスペース運動をはじめた。これが文化、観光資本となった。グラスゴーは産業都市であるがイメージを変えつつあり、1990年にヨーロピアン・シティ・オブ・カルチャーというヨーロッパの文化都市となる。中央政府主導でなく街が行ったので成功した。
広 野: フランスのルピデュフ村での村おこしの例を紹介。自村のよさを村人自身が再発見、再認識しようと考え、村の歴史を野外劇にして、手作りで上演した。今では大人気である。